精霊さんたちとの日常ノート

@waca

ありふれた精霊さんたちの話

 突然ですが、あなたは精霊を信じていますか?


 羽が生えていて見目麗しい少女のような姿をしていたり、二足歩行のモグラのような姿をしていたり、火を吹くトカゲの姿をしていたり、まるっこくてコロコロした草だんごのような姿をしていたり。


 わたしは信じています。というか、実際にそのへんをうろついていたりします。どのコもなかなか小さくて愛らしい姿だったりします。


 残念ながら、剣と魔法のファンタジーによくあるような魔王を倒す強大なチカラをもっていたり、人間様の一方的な自然破壊的な行いに怒り心頭して悪魔のような恐ろしさで襲いかかってきたり、そういった冒険味あふれる方々はお会いしたことがないのですが。

『なんだか不思議な生きものっぽい愛らしいやつ』は実際にいるのですから、もしかしたらそういうのも遠く離れた山の奥とかにちゃんといたりするんですかね。


 少なくとも、なかなか小さくて愛らしい彼ら精霊は、わりとありふれた場所で、のほほんと暮らしています。そして彼らが穏やかに暮らせる土地はいつも豊かで、植物も動物も、いろいろな生命が活力にあふれる土地になるようなのです。

 なるようなのです、というのはわたしがまだ実感したことがないだけで、現実はそうなのだと著名な本にしっかり書いてありました。本は偉大ですね。


 ありふれた場所にいる彼らではありますが、ほとんどの方は頻繁に見かけることがないのかもしれません。なにせ彼らの多くはとても恥ずかしがり屋で、単純に追いかけ回されるだとかでヒトを怖がっているコももちろん多いですが、いつも不思議な力で隠れながら暮らしていますからね。


 なぜわたしが彼らを知っているか?


 それはとても単純で、わたしは精霊さんたちと仲良くなって、お話をして、みんなが一緒に生活できる土地を保つための、そういったたぐいの仕事をしているからです。『精霊の相談所』といえば近いでしょうか。


 世界に点在するヒトの集まる集落のひとつにある相談所に、集落からの委託を受けて、わたしはひとりで勤めています。ぼっち相談所です。


 ぼっちも悪くないですよ。うるさく言ってくるひともいませんから。


 相談所と言っても精霊さんたちから相談にきてくれるわけもなく、待っているだけでは仕事はありません。仕事をして、しっかり堅苦しい報告書を提出しなければ集落からお給金も頂けません。

 なので時間のあるときには集落周辺をあちこち視察にまわって、精霊さんを見つけてコンタクトを試みます。一歩ずつ親交を深めます。悩み事があれば聞きますし、困り事があれば解決に向けて前向きに善処します。他愛もない雑談だって、わたしの大切な仕事です。


 わたしと同じ仕事をしている方は、各地の集落ごとに数人くらいずつはいるのですが、人数はどこもそれほど多くありません。精霊さんとのコンタクトが意外に気を遣ったり、集落のみなさんの理解を得られなかったり、なかなかこの仕事に就くことが難しかったりするのです。(自慢)


 精霊さんたちを見たことのないひとも多くて、ちゃんとした視察がただの散歩ではないかと集落の住民のかたに罵られることや、道端でしゃがみこんで独り言を呟くあぶない女性だと言われることもあってヘコむこともあります。


 だけど、わたし好きですよ、この仕事。

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