第55話
まだ麗佳を裏切らないと決めた日の舞島対策は気が楽で、それこそ夜遅くまで麗佳と対策を話し合ったが、結局のところ良い案が生まれなかった。
「やっぱり週明け初手で舞島ちゃんをぶん殴っちゃっうのが一番良い気が……」
「お前そればっかなのな」
割に脳筋的思考の麗佳からはうんうん唸った挙げ句、それしかアイディアが生まれない。
「でも、円城瓦君の『催眠掛けて、舞島ちゃんを思い通りにする』ってアイディアもアホ極まりないんだけど……」
「おかしいんだよなー、スマホアプリの一覧に『催眠アプリ』ってのが見つからないんだ……」
「おかしいのは間違いなく貴方の頭よ、円城瓦君」
うんうん二人で話し合っても夜も更けてきた二人からは頭のおかしい舞島対策アイディアしか生まれなかった。
「それじゃあね、円城瓦君」
二十一時半を超えた辺りでさすがに話し合いを一旦打ち切る事としたため、麗佳を送りにマンションの下まで降りる。
女子を一人で帰すのは危険だからと数あるゲーム(女の子がいっぱい出てくる系)から学んでいた童貞思考の俺は、家まで送ろうかと申し出たものの麗佳からは「悪いから」と断られた。家まで送るにはどうやら俺の主人公力が足りないらしい。主人公力など日本の男子学生で言えば下から数えた方が早いであろう俺がそれを望むのは到底不可能だった。割り切り早くない?
「ごめんなさいね、円城瓦君。でも、どちらにしてもこうして話し合いができるのも、週明けまでだから」
そう言って苦笑する麗佳。
「……、もしかして麗佳、お前……」
そんな彼女の表情を見て、なんとなくだが麗佳はとどのつまりは俺のためにこうしているのではないかと思い至る。
今日の夕方、麗佳と話をするまでの俺は、裏切る立場になった事から来る懊悩を確かに抱えていた。
だが、今はなんとなくだが気が楽だ。それは彼女のお陰であったと言っても過言ではない。
だから麗佳は最初から俺を説得する気などなく、俺を気持ちよく裏切らせるために話をしたのだとすれば――――
いや、さすがに考えすぎだろうか。
そんな考えを口に出す事は勿論なく、挨拶もそこそこに麗佳とは別れる。
小さくなっていく彼女の背中を見つめていた俺は、柄にもなく前向きに頑張ろうと思えていた。
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