第31話
麗佳は体操服の下にキャミソールを付けていた。
まだこちらに見えている肌面積はそれほどでもない。
しかし、それでも。知り合いの女の子が目の前で肌着姿になるという光景は、俺の今までの人生から考えたらあまりにも異質で、とても現実のものとは思えなかった。
とてもじゃないが青春アンチごときに回ってくる状況ではない何かが俺の目の前に展開していた。
新雪を思わせるきめ細やかな肌。こちらに見える鎖骨や、肩に見えるのはブラ紐だろうか。さらにキャミソールの下からちらちらと覗くヘソがこちらの理性をぶっ壊しに掛かってくる。まるで削岩機でガリガリに削り取られているかのようで、それほどの魅力が麗佳のキャミソール姿にはあった。
さらに顔を真っ赤にし、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
そして、
(おねがい……みないで……)
と彼女は口にする。魅力で殺す気かな?
しかし、彼女のその言葉をどうにか脳髄で理解できた時、ふと我に返る。
待て、待て待て待て待て。彼女の言葉通り、見ていたら駄目だろう、これは。
馬鹿になる。このあと脳みそ壊されて殺風景な病室で、一人孤独にベッドで横になる生活を送ったとしてもおかしくない状況だぞ、これは。まあこんな事考えている時点で現在進行形で脳を壊されているのは間違いなかった。
だが、隙間から覗く視線を外せない。まるで隙間のあちら側からこの世のどんなものより強力な吸引力を見せる掃除機が覗いているかのようだ。ダイ○ンの吸引力など敵ではないだろう。
外せ……外せ……、と理性を司る俺が大声でがなりたてている。しかし、欲望を司る俺が激しい抵抗を見せる。少しでも間違えば欲望に負けて「……げる」と呟いて、悪魔達の支配者になってしまいそうだ。
そうした葛藤が渦巻いて、欲望の触を繰り広げている時、
「あら、そこにはいるのは麗佳先輩じゃないですか」
――――という風な声が聞こえてきた。
そんな新たな声の介入を確認できた事により俺はどうにか隙間から視線を外す事に成功した。俺の人生の中でも一番偉く、尊い行動だった。俺の人生薄っぺら過ぎない? もっとなかった?
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