あなたのためのサジェッション

みずたまり

君と僕とを繋ぐ糸

『メッセージは送信できません』


「えぇ、何でだよー?」


 連続して三度目の送信失敗に、僕はついに声を上げてしまった。真新しいケータイを握る両手にも自然に力が入ったが、特に問題が解決されるわけじゃない。


力を入れすぎて壊す前に慌てて深呼吸をして目をつぶった。そして座っていたベッドに背中から倒れこむ。


 僕の手の内にあるケータイはこの春中学校を卒業した際に、進学予定の高校から支給された新しいのものだ

 ディスプレイ部分が透明である手のひらより大きめなカード型のそれは、上部にレンズ、下部にスピーカーやマイクが備わっている。


 これまで使っていた端末と違うのは、機能制限が解除されており、大人が使うネットにアクセスでき、これまで利用できなかったアプリケーションが使えるようになっていることだ。


 僕達にとってこれが重要なことだった。


 小学校から中学校までを卒業するまでの僕達に与えられていたネットワーク環境は、大人の扱うそれとは違って非常に限定されたものだった。


 子どもと大人では、住んでいる場所は一緒でも、住んでいるネットワークは分断されている。ライセンスを持つ一部の大人を除いて、子どもと大人のネットワークを行き来できる人はいなかった。


 家族や友達との連絡手段として、電話やメッセージアプリ等の手段は用意されていたが、中学生までの僕達に許可されていたメッセージアプリといえば、親や先生が必要に応じて内容をチェック可能なもので、マトモな神経をしている僕達は、当たり障りのない会話をする為にしかアプリを利用できなかった。


 おそらく卒業直後に、一番ダウンロードされたのが個人間メッセージアプリの“StRINGS”だろう。


 学園ドラマの俳優が使っているのを見ては羨ましくて、僕が中学校を卒業したら当然のようにダウンロードするつもりでいた。


 過激な発言をしようものなら、すぐに監視者に注目されて最後には個人の履歴に汚点が残る。そうやって自らの将来をちょっとずつ狭めてしまい、最悪、アウトローとなった例は脈々と語り継がれている。


 よくある失敗ながら、僕達の世代でも相手の態度が気に入らなかったという理由から口喧嘩に発展して監視の目に触れてしまった事件があった。


 そういう失敗は、大体学校外で起こっている。お互い顔を見合わせずに済ませるやり取りでは、ニュアンスの取り違いや足らない言葉により、摩擦が発生しやすかった。


『諦めて登校すること』


 僕達が学校の先輩諸氏から受け継いでいる一つの考え方だった。自室からでもモニターを通して平等に授業を受けられるこの時代に、僕達は自分たちのプライバシーを確保する為にわざわざ学校に出向き、先生から授業を受けていた。


 でも、それもこれからは違う。StRINGSで送られるメッセージは送受信される双方以外には秘匿され、監視者から指摘を受けて個人履歴に汚点が残ることはない。罪を犯してケータイを調べられない限りは、だ。


 中学校を卒業してから、隠れてStRINGSのIDを交換する真の卒業式は春の風物詩となっている。


 僕も例に漏れず卒業式後に、真の卒業式で気の合う友人同士で交換を果たしていた。


 そして早速ユウとメッセージをやり取りしていたのだが……。


 ベッドの上から見える壁掛け時計は夜の十時を超えている。いや、流石に返信するのに時間かかりすぎているだろうこれは。


 ユウからの連絡は、一時間前からない。僕からの返事がないからだ。


 とはいえ、僕以外にもユウが話している相手はいるはずで、待ちぼうけているってことは多分ないと思うし、かといって僕のメッセージを待っていないってこともないと思う、思いたい。


『メッセージは送信できません』


 何とかしなければという気持ちをよそにエラーメッセージは画面に表示されたままだった。


左手で頭を掻きながら、自分が打ち込んだ文面を見直す。


『でも、よかったじゃん。毎日楽しいんじゃない?』


 一時間も頭を捻って考えたにしては短すぎるけど、送らないと。多分ユウは待ってくれている。もう一度送信ボタンを押す。


『メッセージは送信できません』


 意味がわからない。


「意味わからん」


イライラして口にも出してしまう。


『――エラーの詳細を確認しますか?』


 ポン、というキーの高い電子音ののちにケータイから声がする。ケータイに搭載されているAIのパートナーだった。進学するたびにケータイが変わっても、彼女は変わらずに引き継がれていた。


「何でユウに送れないんだよ」


 一瞬の間。声と画面で回答が示された。


『――送信が許可される為に必要な信頼度トラストレベルが不足しています』


 何その単語。


「信頼度? 何それ」


『――新しい端末から追加された機能です。これまでのヒロ様の行動や発言等から、メッセージが真に送信され得るものか検討されます』


 パートナーの流れるような説明も慣れたものだったが、今回は理解するのに少し時間がかかった。


『――つまり、先程作成されたユウ様宛のメッセージは、ヒロ様らしくないと判断されたため送信できませんでした』


「いやいやいや、おかしいでしょ。僕が書いたんだよ?」


『――これまでのヒロ様の言動からは、今回のメッセージにはなり得ないと判断されました。再検討することを提案いたします』


 取りつく島もない。一時間かけて考えた文章を全否定されて固まってしまった体をようやく動かし、ケータイをベッドの上に投げて頭を抱える。降参だ。


「ユウにメッセージを送りたいんだけど、どうしたら送れる?」


『――先ほどの文面の信頼度は55%でした。送信する為には70%以上必要です』


「さっきまでユウに送れてたじゃん」


 つい口を尖らせて突っかかってしまうが、パートナーの語調は相変わらず。


『――信頼度が70%を下回るメッセージは特にありませんでした』


『――それぞれのメッセージの信頼度を確認しますか?』


 もちろんYES――


「…………」


『――それぞれのメッセージの信頼度を確認しますか?』


「……ありがとう。よろしく」


 それからパートナーは数秒沈黙し、次のようなリストを提示した。


H「お疲れー」95%

Y「おつー」

H「おつおつ。これで完全に義務教育から卒業だ」87%

Y「めちゃめちゃ長かったよね(笑)」

Y「糸電話マジ神アプリ」

H「それな。めっちゃ気が楽だわ」99%

Y「さっきまでアイコと一緒だったんだけどわざわざ糸電話で話してた」

H「馬鹿みたいじゃん」71%

Y「(笑)」

Y「センセー、バカって言う人がいまーす」

H「通報すんなよ(笑)」99%

Y「(笑)」

H「ユウはもう家?」90%

Y「うん。何か疲れたし、落ち着いたとこで糸電話したいし」

H「そっか。僕も糸電話したくて早目に帰った」90%

H「これからは学校行かなくて済むから楽だわ」92%

Y「まぁね。友達とは会いたいけど」

H「まぁね」98%

H「そもそも進学先が違うから、なかなか会えなくなるやつが多いよね」99%

Y「そうなんだよー。わかってたけどめちゃ寂しい」

Y「ヒロは寂しくない?」

H「まぁ、それなりに……?」80%

Y「それなりー? 式の時泣いてなかった?」

H「ユウとは違って泣いてねーし」97%

Y「友達と別れるのに泣かないなんてハクジョーモノじゃん」

H「や、そんなもんでしょ。一生会えなくなるわけじゃないし」95%

Y「そりゃそうだけどさ。やっぱり毎日会えなくなるのは寂しいよ」

H「学校でも正直、本音で話せる人そんないなかったし」90%

Y「私がいたじゃん」

H「感謝してるよ、マジで」99%

Y「初めて聞いたけど?」

H「いや、本当に感謝してるって」97%

Y「言葉だけー?」

H「今度何か奢るよ!」85%

Y「よろしくっっ」


「マジか……」


 ここまで読んで僕は一気に脱力した。


 各メッセージの後ろに添付されている数字が信頼度だろう。一桁の細かい数字の差異までは感じ取れないが、高い数値と低い数値の文はその時自分が抱いていた気持ちの差として大きく違和感はなかった。


「どうやって判断してるわけ?」


『主に、これまでヒロ様がとってきた行動をケータイから収集し、集積されたそれらをパターン化して判断しています』


 そこに驚きはない。


 ケータイ。学童用携帯端末。通話にメールにカメラにネット何でもござれの携帯できる多機能端末。


 それは常に携帯しなければいけないものとして小学校に入学する時から僕達に支給されていた。


 ケータイの透明なディスプレイは曲がるようになっており、上下をくっつけるとブレスレット状となる。基本的にはそうして腕に巻きつけて生活をするように指導されていた。


 教科書や課題はケータイを通じて配信されていたため、学生生活に必須のものとなっている。その多機能さ故に違和感なくいつも持ち歩いていた。


 ヒトとモノを繋ぐネットワークが張り巡らされた社会で、個人の身近にあるモノほど普段から使用され、個人情報の集積地となっていることは前時代から変わっていない。


 便利なモノをより便利に利用する為、プラスαのサービスを契約する必要がある。身の回りにモノが溢れる生活においては、野放図に有料サービスを使うことは、人口の大半を占める中流階級には叶わないことだった。


 多くの人々が費用をかけずに便利なサービスを利用することは不可能ではなかった。しかしその代償は身を削るようなものだ。猛烈な広告に曝されることはもちろんのこと、これまでは政府ですら管理しえなかった個人情報でさえも、民間企業が平然と握り始めた。気がつけば、自身と他人の情報を隔てていた壁はもはや薄皮一枚になっていた。


 他人に自分をつまびらかにした上に食い物にされる。便利さの為に自らを捧げる本末転倒な生贄スケープゴートは哀れな迷羊ストレイシープでもあった。


 それでも大企業に導かれるままに羊の群れが辿り着いたのはAIだった。利便さを享受する為に、羊たちは自らをAIに信託した。


 その時からAIは、アシスタントではなくパートナーとして存在するようになった。

 その潮流の果てに今の僕たちがいる。


『――それぞれのメッセージの分析の詳細を確認しますか?』


 パートナーの提案を僕は首を横に振る身振りも交えて否定した。


「確認しない。そもそも、まだ全部読めてないし」


『――かしこまりました』


Y「ヒロは令成高校へ行くんだっけ」

Y「すごい進学校だよねー」

H「運が良かっただけだよ」75%

Y「いやいや、ヒロは頭良かったもんね」

Y「私も試験の時よく助けてもらっちゃったな」

Y「ありがとうね」

H「言葉だけー?」98%

Y「はいはい。私も何かおごったげるねー」

H「別にいいけどさ」88%

Y「あー、4月から不安だなぁ。レキは私と同じで勉強得意じゃないから」

H「ユウの進学先はレキと一緒の専門学校だっけ。頑張ったよな」80%

Y「そうそう。まさかホントに合格するなんてねー」

Y「サテライトで授業は受けられるみたいだけど、一応ちゃんと学校へ通おうと思うよ」

H「せっかくの専門だし、座学だけじゃつまらないだろうしね、いいんじゃない」90%

H「ってことは、引っ越しするんだ?」94%

Y「そうだよー」

Y「色々相談に乗ってくれてありがとうね」

Y「ヒロのおかげで迷いがなくなったよ」

H「役に立てたようでよかった」99%

Y「レキも独り暮らしをするって」

H「……マジか。あの面倒臭がり屋が」99%

Y「今までのレキからは考えられないよね」

Y「これから私がヒロの代わりにレキの面倒を見なきゃいけないのかー!?」


 ここから僕は一時間程返信を考えた挙句、トラストレベルが規定値を下回っているとかで、ユウへのメッセージが送れていなかった。


『でも、よかったじゃん。レキと一緒で毎日楽しいんじゃない?』が55%


 それほど僕らしくないだろうか?


「これじゃダメなわけ?」


『――送信可能となる数値まで15%不足していました』


「じゃあ……子守頑張れよー、とかは?」


『――63%と判定されました』


 そういう路線がいいのだろうか?


「レキの相手から解放されて肩の荷が降りたわ、は?」


『――50%です』


 下がんなよな!


「うーん……その信頼度は無視することはできないの?」


『――StRINGSの機能を利用するには、本機能を併用することが要件となっています。規約を確認しますか?』


 とにかくユウに返事をしないといけない僕はそれにはノーと返事をした。腕を組み、もうちょっと絞り出そうとした時、パートナーから助け舟が出された。


『――入力補助機能を最適化いたしますか?』


 何その機能。


「なるべく最初の感じを残して送れるんだったらいいんだけどさ」


『――かしこまりました。では、最初の言葉を入力してください』


 そう言って、パートナーは沈黙した。画面にはカーソルが点滅を繰り返している。僕の入力を待っているようだ。


 組んだ腕を解き、両手でケータイを持ちあげる。そもそも自分で考えた文章なのに自分らしくないっていうのが気に入らない。


「でも――」


 音声入力された単語の後ろに、次のような言葉が連なった。


 でも<レキが羨ましいよ<寂しくなるな<また遊ぼうよ


『――左に表示されているものから順に信頼度が高いもの提案しています』


「う、羨ましいって、どこから出てきたんだって」


 食い気味にパートナーに突っかかるが、すぐに回答された。


『――ヒロ様はご友人であるユウ様、レキ様と離れたくないと考えています』


 瞬間的にケータイを持ち上げて振りかぶったが、ケータイを破壊した際に生じるペナルティを思い、僕はゆっくりと腕をおろした。


 僕たち三人がつるむようになったのは、中学一年生の時からだ。


 四月、進学してクラス委員になった僕とユウは、担任からレキの家へプリントを持っていくように指示された。

 それはクラス唯一の不登校者であるレキに、クラスメートの情報を伝えるものだった。クラス委員が代表して挨拶に行けということだ。


 クラス委員初めての仕事に燃えるユウに引っ張られて、レキの家の前にやってきた。不登校者と会うのが初めての僕はちょっと緊張しながらインターフォンを鳴らした。


「まぁ、配信者から見てるからわかってるんだけどなぁ」


 レキは自走する車椅子に乗って僕らを出迎えた。先生から渡されたプリントを手に取ったものの、紙の無駄だよね、と切り捨てた。


「だよねー」


 と、僕は口を滑らせてしまったけれど、ユウはそれでも直接会うことに意義を感じているようだった。


「それはそうだろうけど、私はこうして会って、初めてオオスギ君と話せた気がするよ」


「不思議なやつ……」


 レキは呆れた様子だったけれど、僕はなんとなくユウが言っていることがわかる。


 誰も座っていないレキの席に、居座る機械の配信者ストリーマー。正直、不気味に思った。けれど、こうして本人に会ってみると、明日からは普通にそれに話しかけられる気がする。


「オオスギ君は休み時間とか何してるの? 今日はそこにいるんだかいないんだかわからなったけど」


「おい」


 踏み込みすぎだろうとユウを制したが、レキは気にした様子はなかった。


「俺、自分で自分の足を作りたいんだ」


 その勉強をしてる、とこともなげにレキは言う。

 へー! と、僕とユウは声をあげた。僕なんて、今日の晩ご飯は何だろうとか、ゲームの続きとか、塾行くの嫌だなとか、そういうことを考えてばかりなのに……。

 

「試作品、見てみる?」

 

 僕らの驚いた反応に気を良くしたのか、レキは嬉しそうに僕らを自室に招いてくれた。

 車椅子が自由に動けるようする為か、床はきれいにされていたが、書棚やベッドなど、移動に邪魔をしないものについては散らばっている。しかし、肌色をした足は、丁寧に机の上に置かれていた。


 すごーいって、再び僕とユウの声が重なる。だって、それ以外に言葉が出ない。


「3Dプリンターで作ったんだ」


 得意げに語るレキとそれを興味深そうに聞くユウ。何となく、負けてられないな、という気分になる。


「オオスギ君、また来ていい?」


 帰り際、ユウがレキに訊く。おおっ、と思う。それは僕も言いたかったところだ。


「配信者を通じて話せるじゃん」


 ツレない返事が返ってきたが、僕もユウに加勢する。


「そうだけど、それだと自由に話せないじゃん。学校だし」


 レキだってよく知っているハズだ。だからこそ、あまり休み時間に人と話していないのかもしれないけれど。


「そんなに、話すこともないでしょ」


「これからできるよ」


 ユウの言葉にレキは折れたらしい。


「……レキでいいよ」


 ため息の後、そう言って手を振った。


「また明日ー!」


「――明日も来るのか!?」


「部屋の掃除をしてやるよ」


 僕はニヤリと笑って手を振り返した。


「いらねー!」


『――ヒロ様、続けてよろしいですか?』


 パートナーの声に現実に引き戻された。


「うん、いいよ」


 僕は三人で共有している時間が好きだった。それは事実だ。

 僕の数少ない心の通った友人だ。だからこそ、背中を押したいと思っている。新しい世界で頑張ってほしいと思っている。


『――特にユウ様に、特別な感情を抱いていることが考えられます』


 僕はたっぷり十秒程固まった後、


「そんなわけないでしょ」


『――信頼度は1%未満です』


 僕は今度こそケータイを放り投げた。


 幸い、軽く柔軟性が高いケータイは、壊れずにカーペットに不時着した。


『――ケータイを故意に破損した場合、次のようなペナルティが課される場合があります』


 天井にぶつかって落ちた事を恨むかのようにパートナーは定型句を読み上げたが、僕はそれを聞き流す。ユウのメッセージを、スクロールしてもう一度読む。


Y「ヒロのおかげで迷いがなくなったよ」


 僕だってそれは同じだった。常に監視される僕達の世界で、お互いを慰め合い守り合える存在は数少なかった。その数少ない存在の一人がユウであって、本当によかったと思う。


 ユウの事を想うだけで、心が温かくなるのをいつも感じていた。同時に、苦しさも抱えていた。ユウだけだ。そんな気持ちになるのは。


「ユウ」


 音声が認識され、パートナーがその言葉に続く候補を提示する


『――君のことが好きだ>君の夢を一番近くで応援したい>君と一緒にいたい』


 本当は、パートナーに示されるまでもないことだった。自分の気持ちは自分がよく知っていたはずだった。


 言葉にするとしたら、確かにこうなるんだろう。こんな簡単な言葉だった。


 表示された選択肢を削除し、僕はパートナーにお願いした。


「やっぱり最適化はしなくてもいいよ。その代わりに、僕の言葉の信頼度をすぐに示して、解説してほしい」


『――かしこまりました』


 パートナーが選んだ僕の感情言葉は正しい。でも、それだけじゃないはずだった。


 心に生まれるいくつもの感情たちは、僕なりのいくつかの言葉に置き換えられ、時が経つにつれて薄れ、消えていく。


 ユウに感謝されて嬉しく思う気持ち。ユウがレキを気にかけることに嫉妬する気持ち。ユウとレキが自分と違う世界を見ていて寂しくなる気持ち。僕は僕で彼女らに負けないように頑張ろうって思う気持ち。パートナーにユウへの恋心を指摘されて憤った僕の気持ち。僕自身の幸せを想う気持ち。レキの幸せを想う気持ち。ユウの幸せを想う気持ち。


 胸にじんわりと広がる温かさとか、締め付ける苦しさとか、激しく燃え上がる怒りとか、張り裂けそうな痛みとか、溶けてしまいそうな幸せとか、そういう自分の感情について僕はもっと向き合わなければいけない。


『――小学二年生の夏に、算数の宿題が解けなくて泣いていたヒロ様を思い出します』


 思い出したも何もないもんだ。


「僕は泣かないよ」


『――信頼度は1%未満です』

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あなたのためのサジェッション みずたまり @puddle-poodle

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