第11話 安酒を浴びないほどに飲む
ちょくちょく酒を飲んでいる。だいたい夜になるとビールかチューハイか第三のビール的なやつか、一缶分ほど飲んでいる。いわゆる晩酌。
酒が強い方ではないので、この程度でもそこそこ酔う。酔うために飲んでいるので都合がいい。
ぐでんぐでんに酩酊したいわけではないので、巷で話題のストロング系はそれほど飲まない。あれも酔うための酒だと思うが、度数がきつすぎて猛烈に酔ってしまう。胃腸への負担も大きいため、具合も悪くしがちだ。
高い酒はそれなりにうまい。以前は多少マシな酒を、ちびちび飲んでいた。料理に合わせて酒を選ぶのは楽しい。
でも、今は安い酒を浴びないほどに飲む。ちゃんとしたつまみを用意しなくてもいいぐらいの酒を飲む。日々飲む。適度に酔うことだけが目的だからだ。
今夜も酒を飲み、格ゲー大会の配信を見ていた。
目を引いたのはプロゲーマーである、ふ~どのミカだ。
ふ~どは昨年、グラビアアイドル倉持由香との結婚で話題になった男でもある。
そんなふ~どの操る女子レスラーであるレインボー・ミカが、体力ドットの状態から、めちゃくちゃなスピードでグチャグチャな追い上げ方をして勝った。
実況解説いわく、「頭のネジの外し方がわかっているプレイヤー」との評。
もうダメージを食らえない状況で、相手は体力を大幅にリードしているというその局面で、「じゃあこの選択を通せばダメージが取れる」を最速で5回ほど繰り返して逆転勝利した。
途中までのクレバーな立ち回りは何だったんだ。こういう勝ち方、大好きだ。
「じゃあ残り体力ドットなので、こっから頭のネジ外しまーす」と一瞬で判断して突っ込んでいくの、なんだそれ。
どうでもいいことだがレインボー・ミカはヒップアタックで突っ込んでいく攻撃がトレードマークのキャラで、彼の奥さんの倉持由香は『尻職人』として名を馳せたグラビアアイドルだ。
尻をぶち当てたい獣みたいな動きだな。なんだこれ。
あんなふうに即座に頭のネジが外せればいいのに。
俺は割合に考えが凝り固まって、動きが止まりやすい人間だ。
何もしていないのに気づけば肩がこって、疲れて、がんじがらめになり、なんなら落ち込んで、無駄にシリアスになってしまう。
「少し酔ってネジを緩めればいいのか」とある日気づき、体をあまり壊さない程度にこうやって飲んでいる。
世界は深刻に満ちている。ほっといても深刻に作られている。俺なんかはたいして戦ってもいないのに、勝手に画面端に追い詰められて体力バーもジリ貧だ。その状況に至るまでの動きも褒められたものではなく、逆転用のゲージも一切溜まっていない有様だ。
それでもやらなければいけない。まずはネジを少しだけ緩めよう。酩酊して世界が回らないぐらいに。勝ち筋を判断して突っ込んでいくことは出来るぐらいに。
作品を世に出すために必要な能力に、「妥協」を挙げる人を見かける。俺も同じくそう思う。
どこかで「こんなもんでいいや」と決めないと、終わらないし見せられない。まともな判断能力を持っていたら一生世の中に出せないかもしれない。
ネジを外せ。酒を飲め。さほど自慢したものでもないその頭をもう一息弱らせろ。
どれだけこだわって突き詰めても、どうせ世に出した完成品に満足なんてしないんだから、自分を眺めながらちょっと酔っているぐらいでいい。
《追記》
アイデアを出す時にはアルコールが、アイデアを固めて作品にする時にはカフェインがうまく作用するという研究を読んだことがある。
この話を知って以後、なお前向きに酒を日々飲むようになった。
具体的な脳への効果やエビデンス的なものは、ネットで調べればすぐに該当記事が出てくるかもしれないが、裏とりをしようとしている時点で酔いが足らない。もっと判断を鈍らせろ。飲め。
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