第14へ行け。劇的なファンブルやクリティカルを出す方法

 TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)も、随分と一般的な遊びになってきたように感じる。ましてや、こうした小説投稿サイトを利用している人々の間では、この遊びはかなりの浸透具合ではないだろうか。

 クトゥルフ神話TRPGのブームや、カードゲームやボードゲームと言ったアナログゲームの流行が後押しになっているのかもしれない。TRPGにふれる機会が一昔前に比べて、より増えたように感じている。

 また、小説を書く――なんらかの物語をオリジナルで生み出す――といった趣味を持つ人間が、ストーリーを仔細に文章に起こさずともプロットとシステムと遊び相手さえいれば物語に浸れる、このTRPGという遊びに興味を示すのは、自然な成り行きとも言える。

 逆もしかり。TRPGで話作りの魅力に囚われたものが、一人で好きなように物語を展開できる小説書きに傾倒することもあるはずだ。

 俺自身もTRPGは、長いこと遊んでいるゲームである。そこでベテランとしてひとつ皆さんに教えておきたい、TRPGのコツとも呼べるものがあるのだ。

 サブタイトルにもある通り、劇的なファンブルやクリティカルを出す方法である。


 その前にまずは、当方のスタンスを表明しておこう。

 よく「気合でダイス目が変えられる」とか、「自分のダイス目はいつも荒ぶる」といった説を語るTRPGプレイヤーがいるが、自分はこの意見に肯定的ではない。

 ダイス目やカードの引きと言ったランダム要素に判定を委ねているゲームシステムにおいて「気合でなんとかなる」と言うのなら、それはゲームとしての欠陥になってしまう。

 気合や思い入れではどうにもならない部分に判定を委ねているからこそ、ゲームが公平に成り立つ。計算通りに行かない物語のランダム性は、TRPGの魅力のひとつでもあるはずだ。

 では気合ではなく、技術や鍛錬でランダム性システムに介入できてしまうというなら、今度はそれはイカサマだ。ファンブルやクリティカルは本来、狙って出せてはいけない。


 また、「いつも判定結果が荒ぶる」というのも、ありえないと考えている。ファンブルやクリティカルばかりがそんなに必ず出るはずがない。あくまで乱数の範囲内において、極端に低い目や高い目が何度か出て、それが鮮烈に記憶に残っているので「いつも判定結果が荒ぶる」と誤認しているだけだろう。

 ギャンブルやガチャで大当たりとドブばかり憶えているのと、似たようなものではないだろうか。どうでもいい結果は皆、忘れてしまうものだ。

 オンラインセッションツールである『どどんとふ』の開発者が知人にいるが、ダイス目の偏りに関して利用者から文句を言われているのをよく見かける。「3連続でピンゾロが出たのでダイスツールが壊れている」とか、「どどんとふはダイスの偏りがひどくて信用ならない」とか。

 そのたびに「試行回数が足りないので何千回も何万回も試してから本当に偏っていたら言ってください」と返しているようだ。ほんの数セッション、せいぜい数十回サイコロを振った中でファンブルやクリティカルが何度か続いた程度では、「いつも荒ぶっている」とか「偏りがひどくておかしい」とは言えないのだ。

 TRPGを遊ぶ回数にもよるだろうが、全ての判定結果を十年単位で記録して示さない限り、常時の偏りを証明するのは難しそうである。


 と言ったスタンスの表明をした上で、本題に戻る。

 俺は劇的なファンブルやクリティカルを、実プレイにおいてよく出す。「ここぞというところでダイス目が偏るなんてオカルトだろう」と常日頃から言っているのに、自分自身がよく出している。同席した人も「どうしてこのタイミングでそういうのを出す?」というシーンを見たことがあるだろう。

 劇的なファンブルやクリティカルを出すコツを知っているのだ。お教えしよう。


 その方法とは、「ここぞと言うときに運を天に任せること」だ。

 これは結局、精神論や思い込みのように聞こえてしまうかもしれない。しかし確実に効果があることは、過去のプレイ経験がそれを証明している。

 例えば生死判定。キャラクターが生きるか死ぬかの判定で、率先してサイコロを振ってみる。

 例えばゲーム内でカジノに行く。仲間全員の金を集めて「誰がこの判定をする?」となったときに、率先してサイコロを振ってみる。

 判定だけでなくとも良い。右に行くか左に行くか、判断材料もなく答えが導き出せない時には、率先してサイコロを振ってみる。

 こういう行動をとっていると、もしかするとキャラクターは死んでしまうかもしれないし、ギリギリ瀕死で生き延びるかもしれない。大金持ちになって仲間に「賭聖」と讃えられるかもしれないし、ピンゾロで全財産スッて総叩きに会うかもしれない。サイコロに従って右に行けばヒロインを助け、左に行けば超存在に出くわして正気を失うかもしれない。

 そうした行動にはリスクも孕むが、リターンも大きい。また、劇的な失敗をリスクと取るかリターンと取るかも、あなたの考え方次第だろう。

 TRPGは最適解を求めて攻略していくゲームではない。皆で物語を作り共有することが楽しみであり、遊んだ後にその過程を語り合うことも含めて、ゲームの一環とするのも悪くない。「あの判定のおかげでとんでもないことになったよな」と後々に語り草になるのであれば、それはかけがえのないリターンとも言える。


 言い換えるのであればこの方法は、「試行回数を増やせ」ということでもある。

 劇的なファンブルやクリティカルを、狙って出すことは不可能だ。であれば、劇的な結果が出るまで試行すればいい。

 大筋ではその判定は面白みのない結果を招くだろう。だが、何度も繰り返していると、でかい引きも起こしやすいのだ。

 バカの一つ覚えで「判定させろ!」と何でも首を突っ込んで行くのはおすすめしないし、無謀な行動を推奨しているわけではないが、じっと機会を狙っているだけでは何も起こらないのも事実だ。

 ランダム判定をしていいタイミングなら、何かおかしなことが起こりそうであれば、サイコロを振っていく。発言をする。行動をする。なんでもかんでもやっている間に、ときどき劇的なオチを引いてくるのだ。


 リプレイを読む、もしくは動画で見るに当たって、「こんなに劇的なファンブルやクリティカルをどうしてこの人は出すんだろう」と思ったことはないだろうか。

 それはGM側が、「この判定をすることによって起こる結果は劇的なものになる」と仕組んでいるストーリーテリングのうまさによるものも多いのだが、実はからくりはもっと単純なものなのだ。

 何度も判定をする。大したことのない結果が出た場合は自分も皆も忘れてしまう。しかし劇的な結果になった時は盛り上がるし、リプレイにも収録される。どうでもいいシーンが編集でカットされるのは、文章でも動画でもセッション中の脳内であっても同様である。

 あとは、ファンブルやクリティカルによって劇的な結果を招く判定なのかどうか、事前に察知するあなたの嗅覚次第だ。これも回数を重ねれば徐々につかめてくる。「ここでサイコロを振ると何かが起きそうだ」というタイミングが。

 ついには、起こった結果が大したものではなかったとしても、あなたの受け止め方やリアクションで劇的なものへと持ち込むことも出来るようになってくるはずだ。

 「あーピンゾロだ」と言うよりも、「うわあピンゾロが出た!??」と言う方が、場は盛り上がる。その判定で起きたゲーム内での出来事を想像して付け足せば、更に話は劇的に傾いていく。

 これがTRPGで劇的なファンブルやクリティカルを出すコツであり、ゲームを楽しむコツだ。

 漫然と「何か面白いことが起きないかな」とか、「つまんないなあ」と思いながらサイコロを振るよりも、その体験は劇的なものになっていくだろう。




《追記》

 なにもこの「劇的なファンブルやクリティカルを出すには試行回数を増やせ」というのは、TRPGだけの話ではない。

 このエッセイでも「ウメハラダイゴが見倒せない」と一話目を書いてアップしようとしたところでウメハラが風邪で倒れてしまったり、何の起伏もない生活のエッセイを書き上げたところで偶然にも三木一馬氏のキャプで見切れていたりと、運任せかつどうでもいいような劇的を引いてきている。同じ面接官に別の場所で2度面接してもらいゲームシナリオライターになったことも、似たような事例だろう。

 エッセイではまだ触れていない、格ゲーラノベにカプコン綾野智昭氏からポイントを入れてもらったことや、脚フェチバトルラノベを書いていたら強火のファンにオールキャラ脚コスプレ写真を送られたこと、替え歌ネタでバズったら知らない人から怖い歌が送られたことなど、どれもこれも。全て、試行回数の為せる技だ。

 犬は歩かなければ棒に当たらない。

 我々は神ではないのでサイコロを振らなければならない。


《追記2》

 ここぞと言うときに運を天に任せていると、もちろん14にも行きやすくなるし、仲間のPCやNPC、果てはセッションそのものを14行きに巻き込む可能性もある。

 劇的ドラマチックというのは幸運だけでなく不運とも関わりが深い。運命共同体とのご相談はお忘れなく。

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