元旦

 元日の朝は早々に目覚めた。初詣から戻って3時ごろ寝付いたのに、6時過ぎには寒さで体が震えて目が覚めてしまったのだ。掛け布団の足元の方に隙間ができて、そこから冷気が入ってきていたようだ。布団の中が冷えている。もう一度寝ようとしたが、体が冷えているし、あたたまりようがなかった。


 あきらめて12畳の広間に行き、こたつであたたまりながら横になって寝ることにした。すると、その気配を聞きつけてだろう、祖母が広間に入ってきた。

「早いでねえの」寝間着姿の祖母が、戸口で言った。

「寒くて、眠れなくてさ」

「ばあちゃんも眠れねえ」


 祖母は僕の向かい側でこたつに足を入れ、そのままおとなしくしていた。僕は体を起こし、祖母と話すことにした。


 僕は就活をしていること、だが上手く行かないことを話した。祖母に地元の近況を聞くと、去年は誰々が死んだ、という話をされた。僕の知っているおじいさんやおばあさんが何人か亡くなっていた。

「去年は多かった」と祖母はげんなりした様子で言った。「ウチはたまたま親戚が誰も死ななかったから正月飾れたけんど、去年は葬式だらけだったど」

「でも、ばあちゃんは葬式に出てないでしょ」

「オラは出ねえわい、歩けねえもの」祖母は首を軽く振って、そんなこと、とんでもないという風に言った。


 冬の早朝の田舎は静寂が音として聞こえそうなほど静かで、テレビも何もつけていなかったので、僕たちは半ば囁くように喋っていた。両親と妹は、まだまだ起きてくる気配はなかった。

「何だかさ……」僕はつぶやくように言った。「父さんも母さんも、就職のこと言ってこないんだ」

「就職のこと?」

「うん。不気味なくらいだね。何か企んでるのかな?」

「そんだこと、ありゃしめえ」祖母はまた、とんでもないという風に言った。「子どもら帰ってきたから、嬉しいんだべえ」

「そうかなあ……」

「んだっぺえ」


 祖母に両親の企みなど分かるはずもない。僕はうなずくしかなかった。

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