第12話
(12)
一月後、優君の父親である夏目聡氏は自分の住むマンションのベランダから飛び降りて自殺した。
焼身自殺した故人の残した遺言の手紙から不倫が発覚、それが夫婦としての破局を招いた。彼は夫人との口論の末、突如としてベランダへ飛び出し、身を投げた。激情の果ての自殺と言えた。
だが、惨劇は終わらなかった。
桜が咲き始めた三月、今度はその妻である夏目加奈子が刺殺された。
彼女は街の通りを歩いていたところ突如として、一人の男に刺されたのである。その男は古賀竜二と言う電気工事職人だった。
なんでも警察に捕まったところ、こう述べたそうだ。
――加奈子が言ったんです。旦那を一緒に殺してほしいと。
ええ、そうです。俺は加奈子の男でした。加奈子はね…そりゃひどい奴です。あの優君というのは実は自殺した旦那の子じゃないんですよ。遊んでできた子なんです。だからあの子に多額の保険をかけて、いつか…という企みを持っていた。それがうまいことにですよ、偶然にその機会が転がり込んできた。その時彼女さぁ、悲劇の人物を演じる為に発狂乱しないと保険屋を騙せないと思ったらしく、絶叫して万人の情けを受けるよう演技をしたんです。
ええ、旦那ですよね?それは俺がベランダから投げました。あの日俺はマンションの電気工事として呼ばれて加奈子の部屋に行き、旦那を掴んでベランダから投げました。あのマンションは会社の得意先で僕一人の担当でしたからちょくちょく行くわけです。だから誰も怪しまない。そのうち俺と加奈子は工事で顔を合わせるうちに懇ろ(ねんごろ)になり、やがてできてしまったという訳です。あの日もネット回線を引く電気工事があって、そのタイミングに合わせて…始末したというわけですよ。
どうして、加奈子を刺殺したかですか?
僕の所にね、手紙が来たんです。宛先人不明の手紙が。
それにはですね。あいつ他に男ができたって書いてあってラブホテルに行ってる写真が入っていたんです。
驚きましたよ!!。
僕は加奈子を呼んで聞いたんです。そしたら「そうよ」と言うんです。それから「あなたは人殺しだから、もう終わりにする」と言う訳です。終いには「あの時の事は全て部屋に隠して仕掛けたウェブカメラで録画してる」っていう始末。
刑事さん、そんな理不尽ありますか?
あいつだけ手を汚すことなく金も入り男もでき、天国のようなこの世の楽園を歩けるのかなんて、だれが許せるものか!!
あの般若のような鬼め!!
そう思って刺したんですよ。
天罰を受けろってんだ!!
ええ、そいつですか?勿論、知ってますよ、刑事さん。
この銀色の指輪、中にKとあるでしょう。これはね、俺があいつにやった婚約指輪ですよ。
旦那と別れたら結婚しようと思ってやった指輪です。そしたらいつの頃からか分からないが無くしたらしいんです…、えっ?幼稚園の先生の焼身自殺の場所にあったって。そりゃ、自分には関係ないです。もしかしたらあいつその犯人にしようとしたのかな。ちなみに言っときますが、旦那も優君とかいう子が自分の息子じゃないと知っていたらしくて不倫していたらしいですよ。なんでも加奈子にも黙って自分を受取人にして保険をかけていたらしくて。
本当に酷い夫婦だ、そんな奴等が夫婦としてこの世に居るなんて本当にこの世も末です!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます