第8話
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カレーを煮込みながら僕は考えている。娘は起きてテレビを見て、何やら声を上げて笑っていた。
その日、肉屋の若店主は裏口で藤田という先生に肉を渡した。普段その裏口は使用していない。それは入園最初の保護者説明会で言われた。
――現在は不審者が多いため、裏門は常時閉めている。あくまで人の出入りは正門だけ。
ただ一時的な宅急便などの受け取りには利用している。つまりこの幼稚園を囲む道路が反時計回りの一方通行で囲まれており、その為、宅急便業者から裏門での受け取りを希望されている。
宅急便業者からはそうすることで一周することなく、そこで手渡しで受け取ることが可能で時間のロスをなくすことができるからだ。
それには特に保護者からの反対は無かった。
裏門も鍵が掛けられ、また不審者が乗り越えて入ってくることは高さもありできない。
幼稚園は四方に塀があり、正面さえしっかりとしていれば園児保護には問題ないからだ。
玉ねぎを娘に見られない様に手元に寄せてまな板にのせた。玉ねぎは娘が嫌いなものの一つだ。そっと調理しなければならない。
(裏口で藤田先生が肉を受け取った)
その肉は当然調理場へ。
何も不思議な点はない。
僕は藤田先生の容姿を思い浮かべた。
年頃は二十代前半ぐらいだろうか?妻から聞いたところに拠れば大学を出て二年目らしい。
僕もたまに幼稚園に娘を送る時に見るが、普段は綺麗な女性であるのは分かる。女優とか誰かに似ているというわけではないが、鼻筋が通り、二重瞼が目尻で下がっていて、雑誌とかのモデルになっていてもおかしくはない。
特に園児の間では人気のある先生で、保護者からの受けも非常に良かった。
それよりもなによりも最初にあの悲劇を伝えた一人だ。
(彼女に不審な点があると言うのか?)
「パパ!!」
声に驚いて娘を振り返る。
「ママに怒られるよ!!野菜とか触る時は手袋しなくちゃ!!だって冬はインフルエンザになるんだから!!」
僕は娘に言われて本当に慌てた。娘の嫌いな玉ねぎを見られたからだ。
「それと、パパ!!」
思わず、ヒッとした。
玉ねぎ嫌いの絶叫が部屋中に響くのを予想して身体が反応する。
「料理する時は指輪を取らないと無くすよ!!ママはいつも取ってるんだから!!」
娘の思わぬ言葉に、僕ははっとして言葉もなく思わず飛び上がりそうになった。
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