第6話

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 僕は指輪を置いて、鉛筆と紙を取り出した。それで幼稚園の図面を描く。

 幼稚園は四方形の土地で囲むように塀があり、四方は全て道路に面していて、その道路は反時計回りの一方通行になっている。

 正門が北にあり、西に非常用の裏門がある。その正門から南にある建物に向かって廊下が直線に伸びており、途中横に折れて裏門へ抜ける廊下がある。この前のお遊戯会の舞台になった建物が南になり、廊下を空から見ればL型でそのLの開いた場所が運動ができる庭になっている。

 お遊戯はその南側の建物で行われ、勿論、午後の食事会もその建物の隣に併設されている調理場で行われる予定だった。

 僕は図面を書いて廊下を指でなぞる。廊下の角を折れて道具部屋へ。そこで少年はその建物の裏門へ抜ける道具部屋で死体となって見つかった。

 娘の言葉を真に受ければ、優君は娘が舞台に上がるまでは生きていた、ということになる。

 不審者は園内にはいなかった。その日、人の出入りは正門しか開いておらず、そこには警備を兼ねた保護者が交代で詰めていた。

 とすれば、だれが犯人かということになるが、個人的に優君の家庭に怨恨を持つ者は誰もいなかった。優君の家庭もごく普通の家庭で幼稚園に通う他の保護者とも何もトラブルなど無い。

  警察が犯人を特定できなかった理由に現場で指紋が出なかったこともある。それが怨恨説も含め、証拠もないため、犯人が見つからないという状況を事件が起きて行く月も過ぎた現在も尚、作り続けている。

 

 しかしながら、ここに現場に落ちていた指輪があるのだ。

 これがどういう状況を説明すると言うのか。


  今は分からない。


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