ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。
片づけ心理・空間心理カウンセラー伊藤勇司
第1話「心に決めたら、あとはやるだけ。」
「ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。」
そう心に決めた瞬間に、現実は大きく動き出していった。
この物語が現実味を帯びて動き出したのは、2020年の2月9日。主人公である、伊藤勇司の39歳の誕生日。そう、今まさに執筆している本人だ。
最初に断っておくが、ぼくは芥川賞を取りたいのではない。「ぼくがとる必要性がある」と認識している。取りたいのではなく、取る必要性がある。この微妙なニュアンスの違いはとても重要だ。
こんな大口を叩いているからこそ、それなりに自信があると思うかもしれないが、今まで小説を書いてきた経験は一切ない。現段階であるものといえば、「ぼくは片づけ心理小説を書いて芥川賞をとる」という、心に誓った揺るぎない想いだけである。
とはいえ、執筆能力が全くないかというと、そうではない。これまで16冊の実用書を手がけながら、売り上げ部数は累計30万部を超える実績と経験はある。
何事も新しいことを始める時には、これまで経験してきたことが役に立つものだ。そして新しいチャレンジをするときは、これまでの経験を活かしながら極力ハードルを下げて挑戦を始めるとうまくいく。これが、ぼくの成功哲学だ。
赤ちゃんはハイハイを繰り返した先で歩き出せるように、小説も書くことを繰り返し、「考えながら」文章を練磨し続れば、おのずと目標には自然に到達すると考えている。
その執筆能力向上のために『カクヨム』という、素人でも小説執筆を気軽に始められるサービスは、非常に効果的なツールだろう。ただ、気軽に始められるからといって、手を抜くことは許されない。
何事も練習すれば上達するのではなく、何気なくやる練習にどれだけ本番をイメージして行っているかが、その練習の成果に比例していくものだ。だからこそ、練習で始めたこの小説執筆も「芥川賞を取る」という基準を常にイメージして書いていくことは、言うまでもない。
実は、小説執筆を練習からスタートするのには、もう一つ理由がある。練習の特権とは、失敗を恐れずに大胆なチャレンジを試せることだ。だからこそ、ここで書き記していくことは、大胆なチャレンジを織り込んだ形で執筆したい。
そう思って出た結論が、「片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。」という、どストレートな想いをそのまま小説のタイトルにして、執筆練習を開始することだった。
この文章を書き始めたのは、2020年2月12日。
空海ゆかりの地として、露天風呂からは高野山麓が眺望できる天然温泉ゆの里のラウンジで執筆を開始した。ここは、色んな意味で縁がある場所だ。
これまで日本全国津々浦々旅をしてきたが、ゆの里の泉質は別格である。なかでも水風呂は、群を抜いて1番だ。「金水」と呼ばれている無菌の地下水による水風呂は、まろやかに身体を包み込んでくれているような心地よさで、いつまでも入っていられる不思議な感覚になる。
昨年末に『アナと雪の女王2』が公開になって、早くも観客動員数が1000万人を突破したようだが、映画の中でオラフは「水には記憶がある」と話をしていた。
実はこの天然温泉ゆの里は、世界中から研究者が集まり、「アクアフォトミクス」という、最先端の水の研究が行われている。既に海外では「水に健康な情報を記憶させて」それを摂取することで症状を改善するという、医療行為にも応用されているようだ。そう、オラフの言葉は何年も前から、この場所で明らかにされ続けてきた科学的な事実なので、とりわけ不思議な話ではないということだ。
話が少し派生したが、ぼくは「金水」と呼ばれる泉質の水風呂に入りながら、いつものように天井を眺めていた。温泉の水蒸気が水滴となり、天井に溜まった水滴が、一滴、また一滴と、水風呂の中に規則的に落ちてくる。
その水滴が落ちる様子を眺めながら、小説の書き出しについて思いを馳せる。瞑想にも似たこの時間の中で、ふと高校時代の自分を思い出していった。
あの頃のぼくは、今とはかけ離れた自分だった。まさか将来の自分が「先生」と呼ばれて、日本全国を講演活動で旅をするなんて思いもしなかった。
現在も数社の執筆依頼を抱えながら、どこの書店に入っても大概は自分の本が置いてある。今でこそ、それが不思議な光景ではなくなったが、処女作が出てすぐに紀伊国屋で「伊藤勇司」と書籍サーチした時に、検索でヒットした時の感動は昨日のことのように覚えている。
高校時代のぼくはというと、「爆睡王」という名を欲しいままにしていたくらいに、毎日授業を受けずに爆睡していた。一番後ろの席で常に爆睡をしていたの見かねた先生は、ぼくを教卓の目の前にある最前列の席に移動させた。
しかし、ぼくは気にせず爆睡した。それが「爆睡王」たる所以である。
学校に行っては、すぐに爆睡。その後の展開は二通りある。お昼に起きて、弁当食べて、また爆睡。または、一限目から最後の授業が終わるまでひたすら爆睡。これを一切の妥協なく毎日の習慣として繰り返していた。
周りから見れば一切将来性を感じない爆睡王が、後にベストセラー作家になるのだから、人生とは面白いものだ。
そんな高校時代のことを、なぜ水風呂につかりながら思い出したのか?
その答えは、「水のように生きたい」と、当時ずっと思っていたからだった。
水は生命の源。他の成分と混ざり合いはすれど、水という本質がなくなることはない。他と混ざり合うことで互いが活かされることもあるけど、水と油のように異質なものとは決して混ざり合うことがないハッキリとした自己主張もある。
水は水蒸気にもなり、目にも見えなくもなるけど、確かな存在感はある。逆に、氷のように強固な意志を持った姿にも変わっていく。
変幻自在に姿形を変えながら、柔軟かつ自由に存在する。そんな水のように生きることができたら、どんなに人生は楽しいだろうかと、爆睡王はずっと考えていた。
そんな当時の自分を思い出した時。ぼくの心の中で、パズルの最後のワンピースがしっかりとはまった感覚になっていった。
「いよいよ今日からが、本当のスタートだな。」
水風呂で開眼したぼくは、颯爽とラウンジに向かっていく。一番奥の席を見ると、一緒に来ていた仲間たちがお茶をしながら談笑していた。
その様子を遠巻きで眺めながら、ぼくは併設のカフェで「黒沢牧場のソフトクリーム」とロールケーキのセットを注文して、仲間の元へと合流する。温泉に入った後に極上のソフトクリームを味わう至福の時間は外せない。ひとしきりソフトクリームをほうばった後に、ぼくはこの場所で小説をスタートさせる理由を仲間たちに語っていった。
「実は、ゆの里のラウンジで、ある1冊の本を書いたことがあるんです。それが、今回の小説を書く上で利用するカクヨムを運営しているKADOKAWAで出した本。『毒舌フェニックスが教える家族を救う片づけ』なんです。」
空間心理カウンセラーという職業柄、仕事のパフォーマンスを上げるために必ず環境に意識を向ける。文章を執筆する上でも、自分の文章スキルだけでは生み出せないインスピレーションが、環境の力によって引き出されていくからだ。
実際に前作では、ラウンジの窓から見える外の景色をボーッと眺めていた時に、たまたま発見したツバメの巣によって、最後の締めくくりのインスピレーションが湧き上がったことで、納得がいく形で原稿を書き終えることができた。
何よりも、「水は情報を記憶する」からこそ、水の聖地で「ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。」という心に誓った想いを、金水にしっかりと記憶させながら、新たなスタートを切ってみようと思った。
それ以外にも数々の思い出があり、KADOKAWAとの縁も深い和歌山県から、芥川賞作家としての最初の一歩がスタートした。
これから小説を書き記していく前に、少しだけぼくの素性を明らかにしておこう。
その後に、小説の分野に参入しようと思った3年前から遡って、今日までに起きてきた奇跡の数々を書き記していきながら、時系列が現在に戻ったところでこの物語は完結する。
「全ての奇跡は、明確に心に決めることからスタートする。」
意志を持った心のエネルギーが、奇跡的な現象をあっさり具現化していく。事実は小説より奇なりとは良く言ったものだ。それではこれから、リアルなファンタジーの世界を、余すところなくお届けしていこう。
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