チョコの数=一年間の強さの世界で僕は苦笑う

和泉秋水

バレンタイン前日

 バレンタインチョコ。

 それは一年間の強さを決める大事な大事なチョコ。

 ここにおいての強さとは、体力や知力などのことを言う。


 そうこの世界では、バレンタインにチョコをいくつもらったかで一年間のレベルが決まるのだ。義理チョコ一つにつきレベル1、本命チョコ一つにつきレベル2上がる。

 ちなみにチョコがもらえなかったらレベルは1。つまり一つだけもらってもあまり意味がないとも言える。まあ貰えたか貰えなかったかの差は大きい。


 だがレベルが低いからと言って体力や知力は低いままかと言われるとそうではない。

 みんなは知らない。努力さえすれば一般的な体力、知力になることを。しかしレベルが低い=弱いと勝手に思い込んでいるため弱いままなのだ。ようは無意識な自己暗示である。


 さて。

 僕は白木真琴、レベル1。

 僕は去年の中三の時、誰からもチョコをもらえなかった。去年だけでなく小学校の時からずっとだ。だが妹から家族の義理チョコを貰ってはいる。

 僕がチョコをもらえない原因は僕自身にある。隠キャ、オタク、ぼっち、コミュ障などなど。人に好かれる要素はない。


 高校に入って初めてのバレンタインが明日にせまているが、女友達どころか友達すらいない。義理も何もないのだ。いや友達は一人いたな。


「――琴! 真琴!」

「!?」

「筆箱、落としたぞ」

「あ、ありがと」

「おう、一緒に行こうぜ」

「うん」


 その友達が筆箱を拾ってくれた。お礼を言って僕は彼と共に別の教室に移動する。

 彼は西川翔、レベルはなんと218。去年本命チョコを109個もらった俳優と肩を並べられるイケメンだ。モデルの仕事も高校から始めていると言う噂もある。誰かがそう言っているのを盗み聞いた。悲しきかな、ぼっち。

 四月から友達になっているがなぜ僕と友達になったのかはいまだに謎である。


 ともかく彼が僕の唯一の友達だ。


 ◇◇◇


 ようやく一日の授業を終える。

 明日はバレンタインだからかウキウキした雰囲気だ。そして明日は幸いにも金曜日。来年のように土日にバレンタインが来ると、学校でチョコがもらえないため負のバレンタインとも呼ばれている。

 だが僕には関係ない。世界恐慌の中何の影響も受けなかったソ連のようだ。よってその年はソ連やらソビエトと呼ばれていた気がする。全然嬉しくない。

 途中まで帰り道が同じ翔が突然思い出したかのように呟く。


「そういえば明日バレンタインか」


 興味がなかったのか。

 腹立つぅ。


「明日は真琴も貰えるんだろ?」


 嫌味でも言っているのか。


「僕が貰えるわけないよ」

「明日は意外と貰えるかもよ」


 期待でも持たせているか?

 だが残念。元から期待は寄せていない。


 僕は嫌なイケメンと別れ帰宅する。


「ただいま」

「あ、おかえりーお兄ちゃん」


 すでに妹が帰っていたらしく声が帰ってくる。

 妹は今年で中三になる。


「何作ってるの?」

「えへへぇ、お兄ちゃんのバレンタインチョコ。どうせ明日ももらえないでしょ? だから私がお兄ちゃんのために作ってあげてるのっ」


 事実なのだがストレートに言われると心を抉られる。しかも妹。

 しかし僕のために作っているのは嬉しい。


「そうなんだ。いつもありがとう」

「ふふーん。もっと私に甘えても良いだよ?」

「よしよし、よくできた妹だなぁ」

「えへへ」


 僕は妹のチョコを楽しみに一日を終える。

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