第223話 波乱万丈の王位簒奪レース(12)

「そうなのか?」

「はい……」


 私は、商工会議として使用される会議室に向かっている間に小さく溜息をつく。

 現在の私の性別は女性だけど、前世は40年近くも男として生きてきた。

 さすがに服装や言葉遣いは仕方ないと割り切ることは出来るけど、その根元にあるのは男性としての意識に他ならない。

 そんな私に、男性との結婚とか言われても何て対応していいのか困ってしまう。


「あれだな……貴族令嬢は大変なんだな」

「ええ、そうですね」


 レイルさんが何とも言えない声色に、私も適当に言葉を返した。

 会議室に到着し部屋に入る。

 

「皆さん、お待たせ致しました」


 すでに全員が集まっている。

 全員の視線が私に向けられるのを確認すると同時に挨拶してから着席した。

 レイルさんは、私の隣に席が設けられているけど彼は立ったままで居るようで私の横に立っている。


「それでは、皆様もお忙しいと思われますので会議を始めたいと思います」

 

 私は、全員の視線を真正面に受けながら言葉を紡ぐ。

 正直、お父様やお母様と話すよりずっと楽でいい。

 会議の始まりを宣言すると手がすぐに挙がる。


「何か緊急の動議があると伺って集まったのだが、何かあったのかね? 私としては、病気が一段落してアルドーラ公国から小麦の輸入が再開されたから忙しいのだが?」


 そう発言してきたのは商業ギルドの長で、彼の言い分は理解出来る内容であった。

 妖精を利用した農作物の輸入ラインが復活した以上、傘下の商人に小麦を供給しないといけない。

 その配分がすぐには決まっていないのだろう。


「それと、塩を輸出に関してだが量に関してはどうするんだ?」

「そちらに関しては、今後の取引もありますのでレイルさんと協議して頂き輸出される塩の量を決めて頂ければと思います」

「ふむ……」


 私の答えに満足されていないのか商業ギルドの長が、長い顎鬚に手を当てながら天井を眺めてから私を見てくる。


「レイル、量としてはどのくらいが適切だと思っているのだ?」

「量としては、相手に余剰を与えない量がいいでしょう」


 レイルさんは、すぐに切り返していた。

 予め質問と答えが用意されていたかのよう。

 端目でレイルさんの方へ視線を向けると、彼が片目を瞑ってきた。

 どうやら、裏で話合いは済んでいたみたい。

 つまり、商工会議に議題として上がる前に二人は会って話をしていたのだろう。

 以前の兵士としての姿から、町を取り仕切る器へと変貌を遂げていることに、成長していることに少しだけ驚いた。

 

「そうか。それではアロドーラ公国の大公の顔色を見て決めておくとしよう」

「お願いします」


 商業ギルドの長が満足そうに、レイルさんの謝意に頷くと次の方が手を上げた。

 その後も町の経営に関しての議題は上がってくる。

 だけど、殆ど事前で打ち合わせと答えが決まっているのか議会は特に揉めることもなく話会いはスムーズに進む。

 

「ユウティーシアさん」

「は、はい?」


 事実上、レイルさんのお飾り状態だった私は、色町の相談役である女性に語りかけられて驚いた。


「色町の衛生環境に関して貴女の意見を聞きたいのだけど?」

「わ、私の意見ですか? 色町の?」

「そうそう、同じ女性の目線で貴女の意見も聞きたいのよね」

「……レイルさん」

「俺に振るな……」

「ですよね……」


 どうしよう。

 色町の事なんてと言うと失礼に当たるけど、私は前世でもそういう所に言った事はないし、転生した後 もそういう秘め事に関してはまったくのノータッチで意見を求められても困る。

 第一、そういったのは全然してないし……。

 

「――た、たとえば……、衛生環境についてどのような問題が起きているのでしょうか?」

「そうね。具体的に言えば、男性とした後の衛生問題かしら? 私の方としても衛生には気を配っているけど、ユウティーシアさんなら貴族令嬢だし、そのへんの対処は詳しいと思ってね」

「――あ、なるほど」


 つまり、貴族同士が男女の秘め事をした後、どうやって衛生面などを保っているのか知りたいということかー。

 何と言っていいのか……。

 私、そういったのは全然知らないんだよね。

 アプリコット先生だって、そういうのは殿方に任せておけばよいのです! とか、言っていたし……。


「どうかしら? ユウティーシアさんは公爵家令嬢なのでしょう? 婚姻相手も王族や王家筋と話は聞いているから詳しいのでしょう?」

「えっと……、その……」

「やっぱり王族相手だから、衛生面に関してはしっかりとしているのかしら? ぜひ詳しく聞きたいわ」


 詳しく聞きたいと言われても、私には、この世界の性知識なんてまったく無いのだけど……。


「……レイルさん」

「俺に聞くな」

「そんな……」



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