第217話 波乱万丈の王位簒奪レース(6)

 昨日、遅くまで考え事をしていたからなのか、目が覚めてからでも眠い。

 相手を寝かせるクロロフォルムぽい魔法とかなら開発したことがあるけど、目を覚ますような魔法が無いことに少しだけ憂鬱になってしまう。


 私は、口に手を当てながら欠伸をしつつ、寝ぼけた目で化粧台の前に座る。


「少し、目の下にクマが出来ている……」


 自分の顔に手を当てながら、小さく溜息をつく。

 仕方なく、私は化粧台のケースを開ける。

 一応、小さい頃から家庭教師に何かあったときのためにとメイクの仕方は習っていたけど、まさか役に立つ時がくるとは思わなかった。


 明るめのファンデーションで、目の下のクマを隠していく。

 そのあとに、全体的に疲れが見える表情を明るく見せるために化粧をする。


「ご主人たま、何をしているでち?」


 ベッドの上で寝ていた妖精であるブラウニーが、空中を飛んでくると私の頭の上に乗ってくる。


「女性の身嗜みをしているのよ?」

「そうでちか? ご主人たまは、そのままでも十分綺麗だと思うでち。魔力とか……」

「そう、ありがとう」


 最後の魔力って言葉に、私は餌か! と、心の中で突っ込みながらも適当に謝意を述べておく。

 すると、扉がノックされた。


「はい!」


 私は、寝ぼけた声で扉をノックしてきた相手に対して言葉を返す。


「俺だ」


 聞こえてきたのはレイルさんのもの。

 声色からして何か問題が起きたと言った感じでは無さそうだけど。


「はい、どうかされましたか?」


 私は、彼に見られてもいいようにメイクを終えたあと、急いで若草色のフリルの多いワンピースを着てから髪を梳かす。


「今後の方針について、商工会議のメンバーが話をしたいらしい。疲れているなら、日程を改めるようにするがどうする?」

「――いえ、大丈夫です。商工会議の方々には、なるべく早い段階でお話したいことがありますので集まって下さるようにお伝えくださいますか?」

「それはいいが、何やら物音が先ほどから聞こえているが大丈夫か? 体調が悪いようなら無理はしないほうがいいぞ?」


 レイルさんの言葉に急いで外行き用のサンダルを履く。

 そして、彼が向こう側に立っているであろう扉を内側の鍵を外した上で開ける。

 すると、黒を基調とした体の輪郭がハッキリと見える洋服を着たレイルさんが立っていた。


「――私なら大丈夫ですので、今日のなるべく早い段階で商工会議の方とお話の場を設けてください」

「……」

「レイルさん?」

 

 無言になっている彼に対して私は首を傾げながら言葉をかける。


「オホン、なんでもない。それよりだ……、どこかに行く予定なのか?」

「いえ、特にそのようなことは考えてはいなかったのですけど」

「そうか。それなら、あまり胸元が開けている服を着るのは関心しないぞ? きちんとしておくことを薦める」

「は、はい」


 レイルさんは、私の受け答えに頷くと扉を閉めて階下へと降りていってしまった。

 一体、彼は何を言っているの……か……ぁ――。


「下着……」

 

 寝るときに外していたブラをつけるのを忘れていた。

 この世界では、貴族以外のお金がない女性は古来の日本でいうさらしをつけるのが一般的だったりする。

 私の場合は、女性用の下着を作ってもらっていたりしている。


「ああ……」


 私は、ベッドの上にダイブする。

 きっと、レイルさんからは私の胸元が丸見えだったに違いない。

 男性に体を見られるなんて……。

 朝から憂鬱。


「ご主人たま」


 ナイーブな気持ちになっている私に、ブラウニーが話かけてきた。


「何よ? 私、今はアンニュイな気持ちなのだけど?」

「仲間がご主人たまに見てもらいたいものがあるらしいでち」

「見てもらいたいもの?」

「はいでち! 倉庫で待っているそうでち」

「倉庫って小麦とか扱っている倉庫よね?」

「そうでち」


 正直、ベッドで商工会議のメンバーが集まるまで不貞寝しておきたい気分だったりするけど、妖精が何かを見てもらいたいと言ってきたのは初めてだから、少しばかり興味が沸いてしまったりしている。


「わかったけど、今からいけばいいの?」

「はいでち!」

「はぁ……」


 私は小さく溜息をつきながら部屋を出る。

 もちろん、下着は着けた。

 階段を下りていくと、レイルさんの部下の姿が階段を下りた廊下側に見える。


「トーマスさん!」

「あれ? ユウティーシア様、一体、どうなされたので? それに、どこかに行かれるのですか?」

「ええ。2週間近く、ミトンの町を留守にしていましたから、少し町の様子が気になってしまって町の様子と倉庫の小麦の確認をしておこうと思いましたの」

「そうでしたか。それで、レイル隊長には許可は?」

「それで、トーマスさんにレイルさんに伝えておいてくださるようにとお願いしようかと」

「ああ、それで自分に声をかけたんですね」

「そうです。お願いできますか?」

「わかりました。それと孤児院のほうにも顔を出してほしいとミューラが言っていまして」

「……そうですか」


 私の魔力が原因で子供達に迷惑をかけてしまったのに。

 本当に私が会う資格があるのか……。


「はい。ミューラが孤児院の経営をしてくれていまして、子供達が会いたいと言っているらしく――」

「……」


 トーマスさんの言葉に私は無言になってしまう。

 彼に何と言葉を返していいのか分からない。

 そんな私を見ていたトーマスさんは、「ミューラが今後の孤児院の経営について相談したいことがあるらしいので、そのことで顔を出してもらえませんか?」と、問いかけてきた。


「わかりました」


 子供達が病気になったのは私が原因。

 だから、子供達に会う資格はないけど……、孤児院の経営に関して話があるなら商工会議の設立者として聞かないわけにはいかない。


「助かりました。それではレイル隊長には、ユウティーシア様が町の視察に行かれると伝えておきます」

「はい、お昼までには戻るとお伝えください」

「わかりました」


 彼と会話をしたあと、私は建物から出る。

 建物から出た私の目に飛び込んできた光景は、多くの人で賑わう町の光景であった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る