第201話 否定されし存在(5)

 衛星都市エルノに到着した私達の帆馬車は町の大通りをひたすら走り総督府のあった場所を素通りする。

 これから、ミトンの町について、カベル海将を話し合いの場を設けないといけないのだから、総督府が吹き飛んで消えてしまったという残酷な事実は伝えないほうがいいに決まっている。

 

「ユウティーシア様、もうすぐ夕方ですが話し合いは……」


 御者席に座って馬の手綱を操っているメリッサさんが、今後の対応について、どうしたらいいのか? と聞いてきた。


「そうですね……」


 私は、チラリと後ろを振り返る。

 すると、アクアリードさんが無理です! というジェスチャーを送ってきた。

 どうやら、予想よりも遥かに疲労が蓄積しているらしく、早めに話し合いの場を設けたいと思っていた私の予想を裏切っていた。


「仕方ありません……冒険者ギルドマスターに報告を最優先にしましょう」

「よろしいのですか?」


 メリッサさんの言葉に頷く。

 だって、ミトンの町について聞くことが出来なければ他にすることがないから、報告をするのも致し方ない。


「メリッサさん、とりあえずはラーブホテルにカベル海将を泊めましょう」

「分かりました。他の方は?」

「帆馬車の中で縛りつけて転がしておけばいいでしょう」

「いつもどおりのユウティーシア様で安心しました」

「――え?」


 思わずメリッサさんのほうを見てしまう。

 彼女は、私を見ながら「敵に温情をかけるなんてユウティーシア様らしくないので、心配しました」と語りかけてきたけど……。

 私って、そんな風に見られているのかと思うと、少し複雑な気分であった。




 カベル海将を、ラーブホテルに宿泊させると共に、アクアリードさんに護衛をお願いした。

 彼女は弓を弄りながら、早く的が来ればいいですね! と嬉しそうに言っていたので、きっと、あの弓は呪いの弓であったと思っておくことにした。


 そして、私とメリッサさんと言えば帆馬車の荷物を置く場所で、男達を縄でぐるぐる巻きにして転がしておいた。

 もちろん武器も洋服も全て回収して、下着一枚!


「さて、これで大丈夫ですね」


 私は、メリッサさんのほうを振り向く。

 彼女は男性の下着一枚の様相をみて顔を真っ赤にしている。


「あの……ユウティーシア様は、シュトロハイム公爵家のご令嬢なのですよね? 殿方の裸を見ても、あまり気にはしていないようでしたが……」

「えーっと……」


 無意識のうちに男達の服を脱がしていった。

それは前世が男であったから。

だから、男の裸なんて、自分の裸で見慣れているし意識していなかった。

でも――。

この世界では貞操観念がやたらと高い。


男性の服を脱がすなんて結婚後の女性か商館の遊女くらいだろう。

もしくは奴隷の女性とか――。

そう考えると……。


違う意味で男慣れしている私は、前世で言うところのビッチなのかもしれない。

まことに、不本意だけど……。


「非常事態だからです! 私だって殿方の裸を覗き見るような、そんな趣味は在りませんし……」


 なんとなくだけど、答えを返せない私はメリッサさんの問いかけに関して非常事態ですから! という言葉で濁すことにした。

 でも、カーネル・ド・ルグニカを含めて敵対する要人を捕まえているのは事実だから、なんとなく非常事態という言葉で済むはず……。


 私と、メリッサさんは居酒屋件食事処の建物前に帆馬車を止める。

 それだけで、周囲から人が離れていく。


「これは……」


 どうやら、営業を再開しても色々と問題が起きたお店は、復興までに時間が掛かりそう。

 何せ、壁が外に向けて爆発したり大きな物音が発生したりと、色々と問題が起きたのだから。

 キッカさんもこれから大変だと思う。


「また一つお店が潰れそうですね」


 私は、今後の彼女の店の行く末を考えて小さく溜息をついた。


「お前のせいだろうに」


 私とメリッサさんが話しをしていると、男性が会話に割り込んでくる。


「えーと、どなたですか?」

「昼間にあっただろ! グランカスだ! エルノの町の冒険者ギルドマスターだ!」 


 私は、両手をパンと叩いて「ああっ! そんな人がいたような!」と、彼の言葉に答えた。


「忘れるなよ……、それよりダンジョンの探索はしてくれたのか?」

「はい! 攻略してきました」


 グランカスさんは、話を聞くと「なん……だと……?」と答えてきた。

 

 

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