第200話 否定されし存在(4)

 カベル・ド・ルグニカ。

 海洋国家ルグニカ王国の王家の一人であり、王位簒奪レースにより王位継承順位6位の貴族である。


 彼が治めているのは、エルノ地方。

 その地方名が、そのまま都市名として使われている。

 それが、衛星都市エルノ。

 海上都市ルグニカを治める王から、地方の統治を任されていることになっている。

 

 ただ、それは表の話であり、海洋国家ルグニカを建国した際に7人の海賊の子孫が持ちまわりで王を兼ねているに過ぎない。


 そして王位簒奪レースというのは、国を建国した7人の海賊が、初代の王を決める際に始めたレースであり、それが現在まで続いているというのは有力説とされている。


 実際、現在でも初代7人の海賊の子孫が数年ごとに王を決めるレースを行っている。

 そして、それは近年では持ち回りになっており出来レースと言われてはいるが、国政的には安定していることから、帝政国以外からは貴族や商人、そして王族などもレースの開催に合わせて、開催地であるスタート地点の衛星都市スメラギに外遊しにきている。


「なるほど……」


私は、エルノ近郊のダンジョンに行く前に、道具屋で購入した本を見ながら一人頷いていた。


エルノ近郊のダンジョンから、衛星都市エルノまでの距離は3時間ほどの距離があり帆馬車に揺られていると、飽きてくるのだ。

それに、貴族用のクションが敷かれた椅子に座っていつも移動していた為、何のクッションもサスペンションもない帆馬車の振動の中では眠れない。


横で寝ているアクアリードさんは、本当にずぶといというか何と言うか……。

まぁ、冒険者なのだから、休めるときに休めるようにしておくのは仕事なのだろう。


「ユウティーシア様、町が見えてきました」


 御者席に座っているメリッサさんが、馬車の移動音に負けないくらいの少し大きめの声で語りかけてきた。


「そうですか……」


 私は、立ち上がり御者席と後部を隔てている布を取り払う。

 たしかに、馬が帆馬車を引いている先には町を囲む壁が見える。


「ようやく到着しましたね」

「――はい。それにしても思っていたよりも早くダンジョンを攻略してしまいましたから、ギルドマスターも驚くかも知れません」

「そうなのですか?」


 メリッサさんの言葉に私は首を傾げる。

 そんなに難易度が高い迷宮のようには思えなかったから。


「あまり、難しい迷宮ではありませんでしたよね?」

「……そういえば、ユウティーシア様は、ダンジョンのボスモンスターを倒されたのですよね?」


 メリッサさんが軽快な手綱捌きを見せながら、私に問いかけてきた。


「えーと……」


 ダンジョンのボス?

 なんかドラゴンみたいなのをついでに倒した気がするけど……。

 あんな弱いのがボスな訳がないと思う。

 ボスって魔法体勢最強! 魔法無効化! 物理ダメージ無効化! みたいな感じだと思うから。


「黒い竜を落下した時に見ました」

「黒い竜? 黒竜ですか? それとも邪竜ですか?」

「さあ?」

 

 魔物博士でも無いのに、そんなことが私に分かる訳がない。

 そういうのはベテランの人に任せておくべき。


「どうやって倒されたのですか?」

「えーと……」


 どうやって倒したっけ?

 とりあえず、ついでに倒したのは覚えているけど……。

 印象が薄すぎて記憶がハッキリしない。

 あれで、もう少し強ければ私の記憶に残っていたかも知れないのに!


「とりあえず、風と土を合わせた竜巻で倒したでいいのかな?」

「なんだか、ふわっとした説明ですね?」


 苦笑いをしながら、メリッサさんは、しばらく黙りこむと……。


「もしかしたら黒竜の幼竜だったのかも知れません、本来でしたら黒竜の成竜には魔法は一切効きませんので!」

「なるほど……」


 たしかに言われてみれば、竜の大きさも30メートルくらいで中途半端だった気がしますね。

 

「それでは、宝箱から出たアイテムは当たりだったんですね!」

「そうなります。それにしても、カベル海将が無事でよかったですね」

「そうですね。あっ、くれぐれも水をダンジョン内に流したのは、内密にお願いしますね?」

「分かっています。その代わり剣と弓に関しては……」

「はい、二人で使ってください」


 私と、メリッサさんはお互いに微笑みと握手をした。




 

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