第155話 暗躍する海賊の末裔(15)

「さて――」


 エメラスさんは、何が起きたのか分からない様子? 違うかな? 表情を見る限り青くしているということは、本当に過労死するまで働かされるのかと驚いている?

 まぁ、そんな事はしませんけど……。

 そもそも国を丸ごと相手にするほど、余裕はありませんし――。

 

 それに、王族とは言え地方を独自的に治めている自治領権が極端に強い海洋国家ルグニカにおいては、王族を殺さないかぎり国全体から目の仇にされるようなことはないでしょう。

 もし、他の領地を治めている総督府に知られれば、スメラギの総督府は自治するだけの器がないと思われ海上に存在する海上都市ルグニカから干渉を受ける可能性だってありえる。

 そうなれば、出来レースで国王になったとは言え国民の手前、下手な干渉は出来ないはず……。

 そう思いたい――。


 でも、さすがに王族を殺したとなれば国の威信をかけて討伐隊が編成されるかもしれないし、余計な禍根を生むことにもなりかねない。

 そんなことまで、正直なところ……面倒見きれない。


「エメラスは、今までは総督府にいらっしゃたんですよね?」

「……そ、そうですわ……」

「ということは、衛星都市スメラギが治める周囲の地理にも明るかったりするのですか?」

「……」


 彼女は、どうやら黙秘権を行使するよう道を選んだみたいだけど、その反応は、良いとは言えない。

 先ほどまで一触即発だった市民の感情を少しは理解して行動してほしい。

 私が芝居を打ってまで彼女を助けた意味が無くなってしまう。


「レイルさん、彼女を――え?」

「気絶させて運べばいいんだろう?」


 仕方なく溜息をつきながら、レイルさんにお願いしようとして途中で、レイルさんは手刀をエメラスさんの首へと落とし気絶させながら、私の疑問に答えてくる。


「は、はい……よろしくお願いします」

「俺は、こいつを連れていくからな。お前は、民衆の不満を何とかして戻ってこいよ?」


 レイルさんは、それだけ言うと数名の町の兵士を伴って民衆をかき分けながらミトンの東門へと向かってしまった。

 そして、私と言えば……。

 一人、民衆の中心でポツーンと置いてきぼり――。


 誰もが! エメラスさんをレイルさんが抱き上げて連れて移動していたときも、民衆の目線はずっと私に釘付けで――。


「はぁー……。なんだか、いつも損な役回りを押し付けられてるような気がしてならないです」


 一人呟きなら、きっと気のせいだよね? と自身を鼓舞しておく。

 さて! どうやって纏めましょうか……。

 こういう時は、適当に話を! なんとなく! どうとでも! 取れるように! 演説するのが良いかもしれません!


「皆さん! よく聞いてください! これで神罰は終わりました! あとは、この小麦の女神ユウティーシアに任せてください!」


 場は、シーンと静まり返って反応は宜しくない。

 見てれば分かる! とか言われたら、そのまんまですけど……。

 ここは駄目押しとばかりに何かする必要があるかもしれない。


 私は、右手を頭上に掲げる。

 そして魔力にモノを言わせて、上空に無数のファイアーボールと同程度のウォーターボールを作り出し――。


「コレが奇跡です!」


 ――次々と相反する水と炎をぶつけて爆発させていく。

 それは、空砲と同じで――。


 辺りは、うるさい程の音が鳴り響く。

 そして終わった後には、大きな歓声が私を包み込んだ。

 どうやら、私が行った魔法を使ったショーは、大衆の心を掴んだらしい。


「ユウティーシア様!」


 先ほど、レイルさんが一緒に連れて行った兵士達が戻ってくると、「護衛いたしますので、もどりましょう」と、話しかけてきた。

 民衆も、どうやら私が魔法で起こした現象を興奮した面持ちで周りと話し合っている。

 今なら、問題なく抜けられそう!


「それじゃ、すぐに逃げましょう!」

「ユ、ユウティーシア様……」


 兵士達は呆れた様子で、私を見てきたけど何かおかしな事を言いましたでしょうか?

 ふむー。

 とりあえず、明日からは! 私は! 何も仕事をせずに! エメラスさんに全ての仕事を押し付けて! ゆっくりと休めるはずです! ……まぁ、またどこぞの軍隊が攻めてきたら戦わないといけないのだけは面倒ですけど……。


 


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