第154話 暗躍する海賊の末裔(14)

「それは……横暴だ!」


 私の声を聞いた周囲の大衆が次々と不満を口にしてきた。

 ただし、声がした方へと視線を向けると誰もが下を向いてしまう。

 まったく、文句を言うだけなら何とでも出来るんですよ。

 問題は、海洋国家ルグニカとシコリを残しておくと、何かあって私が居なくなったら確実に後世問題が起きて大変な事になる。

 そこを理解せずに、貴族を安易に殺せとは頂けない。

 

 ただ、彼らに正論を説いたとしても、彼らには彼らなりの虐げられてきた事実がある以上、すぐに理解してもらうことは難しい。

 そのくらいは分かる。

 だから、小麦の女神様という力で、神的パワーで何とか誤魔化そうとしたけど、それは無駄だったようで……。


「どうするんだ?」


 険悪な空気に染まりつつある決闘場でレイルさんが私に話しかけてくる。

 ただ、すぐに答えることは出来ない。

 何故なら、どう彼らを説得していいのか、その落とし所が見つからないから。


「さて――」


 私は、エメラス王女へ視線を向ける。

 そこには座りこんで、捨てられた子犬が飼い主になる人間を見るような目で私を見てくる女の子が一人いるだけで――。

 

 まぁ、一度、助けると言った手前、やっぱりソレは無し! と言うのは男としては、駄目だと思う。

 ここは、上手く話を持っていって民衆を納得させる方がいい。


「静かにしていただけますか?」 


 私は、身体強化の魔法を発動させたまま軽く地面を踏みつける。

 すると大地は放射状に割れていき、周囲を取り囲んでいた民衆まで広がっていく。


「だ、大地が……」

「地面にヒビが……」

「や、やっぱり……神様――?」


 次々へと私が起こした様子に周りの大衆は驚き悲鳴に近い声を上げていく。

 それと同時に、私へと向けられていた「横暴だ!」とか「神様を語っている!」という声は小さくなっていく。

 さて、少し威厳を見せたところで次にすることは――。


「あなた達に、伺いましょう!」


 私の演説に周囲を取り囲んでいた民衆は一斉に視線を向けてくる。

 さて、ここからが私の真偽を混ぜた話の見せ所。


「本当の謝罪、罪の償いというのは何だと思いますか?」


 民衆への問いかけに大半が「死刑や神罰」と言った言葉を上げてくる。

 私は、彼らの答えに否定的な意味合いを込めて頭を振るう。


「それは違います。死と言うのは安易で簡単な罪の逃れ方だと、私は考えております」


 私の言葉を理解していないのか、民衆の大半は首を傾げている。

 さらに、私は言葉を続ける。


「皆さんも奴隷制度と言うのを知っているかと思います。たとえば、鉱山で長年酷使されて死ぬのと、落盤にあって一瞬で死ぬのは、どちらが奴隷にとって良いでしょうか?」

「お、おい――」


 レイルさんが私の肩を掴んできて話してくるけど、今は、民衆を納得させることが出来るかどうかの瀬戸際。

 余計な話をしていてはいけない。

 それに、私が決めた内容にレイルさんが関与してるということになったら、いざ問題が起きたらレイルさんにまで、追求の手が行くかも知れないから。


「ま、まさか……」

「いくらなんでも……王女様を……」

「重犯罪奴隷と同じ扱いに――?」

「――だ、だけども……俺たちだって……ずっと……」


 聞こえてくる声に耳を傾けながら私は言葉を紡ぐ。


「まず彼女は、ここら一帯を治めているスメラギの総督府を治めている長の娘であり価値があります。次に、彼女にはミトンの町を治めていくにあたり、多くの仕事を手伝ってもらうことになります! もちろん無給ですし! 過労死ギリギリまで働いてもらおうと思っています」

「小麦の女神様! 過労死というのはなんでしょうか?」


 私達を取り囲んでいる民衆の中から、質問の声が飛んできた。

 私がチラリと見ると、私に見られたみすぼらしい服装を着た男性は、怯えるように視線を地面に落としてしまう。


「そうですね。過労死というのは、働きすぎで死ぬことです!」

「そ、そんな……死が!?」


 私の説明に、多くの人が動揺する。

 まぁ、この世界は、電気を利用した蛍光灯とか存在してないから日が沈んだら基本寝る生活になっている。

 つまり、栄養不足で死ぬことはあっても労働で死ぬことは少ない。


 そう考えると、過労死が日常的に存在して、毎年3万人も若者が自殺する日本という国は異常なのが分かる。

 というか毎年3万人も死んでいたら、この世界だと確実に人類は滅びる。


「そういうことから、そこにいるエメラスは、この小麦の女神ユウティーシアの付き人と致します。文句はありませんね?」


 私の言葉に、周りを取り囲んでいた民衆は過労死という言葉に驚いたのか静かに、頷いて見せた。


「え、えっと……私――」


 何を語っていいか分からないような表情をしたエメラス王女は、言葉を選んでいるようであったけど、結局は途中で口を閉じてしまう。


「それでは、エメラス。今日からは、貴女は私の付き人ですので仕事を手伝ってくださいね?」


 私は、ニコリと微笑みながら彼女に用件だけを伝える。

 これで、私の仕事を手伝ってくれる人材をゲットです!

 

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