第139話 商工会議設立です!(5)

大きな利益と言う言葉が出た瞬間、有力者達の視線が熱を帯びた。

 何と言うか予定調和で話が進んでいたのに、まったく違う利のあることに彼らは一瞬、驚いてしまったのだろう。

 

 そこから推測できるのは、おそらくレイルさんは、ある程度、有力者に話を通していたということ。

 そして、現代知識である株式からの利益還元を理解していないこと。

 私は少しだけ安心した。

 どこまでレイルさんが話しを通していたのか分からなかったから。


 それと同時に少し不安に思った。

 ここに集まった人間の殆どが目の色を変えていたから。

 そこから分かるのは、彼らは利益に聡いが、その反面、不利益になるようなら容易に裏切る可能性もあるということ。


 でも人口1万人に届かない町と言っても、既存の情報網や物資搬送網が使えるか使えないかは大きな違いになる。

 ゼロから、搬送・情報網を構築するための人材育成や、取引方法のノウハウなど一長一短で作れるものじゃない。

 

「それで大きな利益というのは何でしょうか?」 

 

 ずっと黙っていたバンダナを額に巻いた赤い瞳をした20歳後半の偉丈夫の男性が私を見ながら話しかけてきた。

 他の人々も興味深々のようで、誰もが私へ視線を向けてきている。


「はい、皆様に、お渡しした権利書ですが――実際のところ、そこに私の拇印を押した時点で効力を発揮します。そして今回立ち上げる商工会議は、健全に町の経済や運営を行うことを目的としています」

「なるほど――表向きはいいが、大きな利益というのを教えてもらえないか?」


 表向きじゃないんですけど――。

 でも、ここで本音を語っても仕方ないですし、その変は大人としての対応をするとしましょう。


「まず、現在、立ち上げようとする商工会議は何も商品を取り扱っていない為、資産価値はゼロです」


 私の言葉に全員が頷く。

 ここで、「なんでだ?」と突っ込まれたらさすがに私も困っていた。

 だって、何も商品を扱っていないと言うことは、営業していないということ。

 つまり物資在庫がなく、物資的価値が何もついていない。

 だから資産価値はゼロ!


 まぁ、現実世界では何もしてなくても上場できる会社もあるから、具体的に言うとそうじゃないけど……まぁ、この異世界でも王族や大貴族が商会を立てるなら価値はありそうだけど、私達みたいな何の後ろ盾もない状態だと、資産価値ゼロどころか、この町を管理しているスメラギの総督府から睨まれているからマイナスと言ってもいい。


「ですが! アルドーラ公国から何十トンもの小麦や穀物が搬入された場合、付加価値が一気につきます」

「ほう?」


 髭を生やしたドワーフぽい体系の男性が、頷いたあとに私を見てくる。

 その目には真偽を見極めようとしてるように、とてもするどい。


「小麦や穀物が入荷した後に、町の商人の方々へ余所の町よりも安い価格で販売したいと思っています」

「どうして、余所の町よりも安く販売したいと?」

「それは、余所の町からの商人を呼び込みたいと考えているからです」

「つまり……別の町からの商人が売りに来るかもしれない商品を目当てにしていると?」

「はい。そう考えております」

「ふむ……それで、町の住人に食料品が回らなくなったら問題ではないのか?」

「そこは規制をかけるといたしましょう。ですが、町の中だけの商人からでなく外部の商人からの外貨を稼ぐ事が可能となります」


 そこまで話した時点で、髭を生やした男性が立ち上がると「――そうか! つまり、その外貨と町内で販売した小麦の資金を管理するのが商工会議としたら……」と呟くと、ターバンを額に巻いた男性が、「莫大な付加価値になりますな!」と、言葉を引き継ぐかのように呟いた。


「まぁ、売上の5割は町の治安維持、住民の生活保護、外部からの脅威に対する兵士の鍛錬や雇用などに使おうと思っていますが、それでも大きな価値になります。それに商会の利益が増えれば増えるほど分配の価格も増えますし……何より住民の為にお金を使うという行為は、英雄的行動として尊敬されますよね?」

「「「……」」」


 全員が、何かをいう前に英雄的行動として尊敬されますよね? と言う言葉で彼らの動きを封じる。

 兵士や騎士や王族と違って商人が人から尊敬されるようになるのは本当に大変な事で、それを何の元手も無しに受けられると言うことは、とてつもないメリット。

 普通の人なら、断るわけないし。

 英雄的行動なら、後世の人間が何かしらの銅像とか建ててくれるかも知れない!

 私だったら絶対嫌だけど!


「私から提示できる利益は2つです。一つ目は、小麦を販売した時の売上と、それに付随する際の利益一部還元。2つ目は、町に貢献しているという住民からの尊敬の眼差しです。どうでしょうか? お力を貸して頂ける事はできますか?」


 私の言葉に全員が黙りこんでしまう。

 

「ユウティーシア殿、その利益というのはどの程度、頂けるのかな?」


 ドワーフさんのような体格の人が、とりあえずと言った感じで質問してくる。


「はい、利益に関しましては、簡単にご説明いたしますと小麦の販売で金貨2枚が一人利用される価格としましたら住民が1万人の場合は、金貨2万枚の収入になるわけです。実際はそれに付随する価値もありますのでもっと増えると思いますが、金貨2万枚のうち5割を町の維持として使うとすると金貨一万枚が残る形になります。そして、株式比率としましては、皆様の場合は2.5%ずつと言う形をとっていますので月で金貨250枚が支給される形になります」

「ちょっと、待て!」


 男性が立ち上がって、私を見てくる。

 さてはて、ここからが正念場ですね――。



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