第131話 商工会議を設立しましょう!(21)

 ひさしぶりに貴族令嬢風の挨拶――カーテシーをしたけど、フィンデル・ド・アルドーラ大公とスペンサーは、少しだけ頷くと。


「やはり――リースノット王国の懐刀であるユウティーシア・フォン・シュトロハイムで間違いはないようですね」

「そのようだな――」


 私の挨拶を見たスペンサーは、私と距離を取りながらも初老の男性に話しかけフィンデル大公は、スペンサーに答えを返しながら私を見てから小さくため息をつくと。


「ユウティーシア嬢、貴女がどうしてこの国にいるかどうかは詮索はすまい。ところでスペンサーから受け取った手紙に書いてあった内容を話合いたいと思っているのだが……」

「わかりました」


 私は、フィンデル大公の言葉に頷く。


「レイルさん、商談が出来る場所を大至急手配して頂きたいのですが?」

「もう手配は済んでいる」


 レイルさんの言葉に私は頷くと、案内をしていただくように言う前に子供達に出かけることを伝える。

 そして家を出てレイルさんのあとを着いていく。

 私の後ろにはフィンデル大公と第二王子であるスペンサー、それとお付きの騎士が二人と魔法師が歩いている。

 家の前の路地を大通りの方へ向かって歩いていき、大通りに出た後に北へ向かって大通りを歩く。

 3分ほど歩いた後――目の前には、石作りの2階建て建物が建っている。


「ここになる」


 レイルさんは私達の方を見ずに目的地に到着した事を告げてきた。

 そして懐から鍵を出すと扉を開けて中に入っていく。

 

「ユウティーシア、ここは――何の建物なんだ……ですか?」


 後ろからアルドーラ公国の第二王子であるスペンサーが話しかけてくるけど、何の建物と言われても私に分かるわけがない。

 そもそもこんな建物が用意されているとはまったくの想定外だった。


「ここは、衛星都市スメラギの総督府から派遣されていた代官が暮らしていた建物だ」


 レイルさんは、私の方をチラッと見た後に……ぶっきらぼうに説明してきた。

 

「そうなんですか……」


 ミトンの町に、代官がいるとは初耳。

 でもよく考えてみれば、税金を集める人間の滞在は必要だし、代官というのは税金を集める職業なわけで――住民に恨まれる可能性もありそう。

 そう考えてしまうと木や土壁や煉瓦が壁の主流である異世界にとって、石壁で作られているのは身の安全から当然と言えば当然と言えなくもないはず。


 私は、レイルさんが王族に話すような口調では無かった事から、とりあえずすぐに相槌を打った後に、私と話してましたアピールをしつつ、アルドーラ公国の王族へと視線を向ける。


「どうかしたのかな?」


 私が見た事に気が付いたフィンデル大公はすぐに言葉を返してくる。

 ――っと、いうか……ずっと私の方を見ているのはやめてほしい。

 つねに見られているようで、あまりいい気分はしないから。


「いいえ、階段には気を付けてください」


 私は、フィンデル大公の考えを誤魔化すように言葉を紡ぐ。

 実際、これから木製の階段を上っていくから私の話の振り方はおかしくはないはず。


「うむ――問題はない」

「そうですか……」


 フィンデル大公と一言二言話したところで、3階に唯一存在している扉をレイルさんが開けると、私達は部屋の中へ足を踏み入れた。

 部屋の中には長さ20メートル、横幅3メートルもの大きい木製のテーブルが中央に置かれており、その周辺には20脚近くの椅子がテーブルを囲むように置かれている。


「ここは代官や、総督府から来た徴税官が話合いの場で使っていた場所らしい。ユウティーシアが、この町の外で戦闘を行ったあと兵士達が衛星都市スメラギから撤退した時に一緒に代官も逃げ出したようだ」

「そうですか……」


 レイルさんの言葉に頷きながら思う。

 代官や兵士が逃げてくれたからミトンの町を手に楽に入れられた。

 だけど、今も代官がいたら色々と問題が起きてたかもと考えていると、フィンデル大公が「そろそろよいか?」と話しかけてきた。

 

「あ、はい――申し訳ありません。それでは席にどうぞ」

「ふむ――」


 フィンデル公が椅子に座ると、隣にはスペンサーが座った後に、その隣に魔法師が座る。

 黄色の鷲の紋様をつけた金属鎧を身に纏っている騎士の2人は椅子に座らずにたったまま。

 着席を勧めても座らない事から私は諦めてテーブルを挟んだ椅子に座る。

 私の後ろには、何故か知らないけどアルドーラ公国の騎士のようにレイルさんが立っていて、とても落ち着かないけど……。


「それでは、ユウティーシア嬢。今回の手紙の件であるが……詳しく話を聞きたい」


 

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