第125話 商工会議を設立しましょう!(15)

「え? それじゃ……全部……私の勘違いなの?」


 ミューラさんは、呆然と自分自身を言い聞かせるように呟いて考えて初めていた。

 私も、すぐに誤解を解いた方がいいと思い「はい、ミューラさんの勘違いです。私とトーマスさんは、男女の関係は一切ありません。ですから心配しなくて大丈夫です!」と、畳み掛ける。

 私の言葉を聞いたミューラさんは、顔を上げて私を見てくるとしばらく考えた後に。

「わかりました。本当にトーマスさんとは一切、関係ないんですね?」と再確認してきたので私はすぐに頷く。

 するとューラさんは大きくため息をつくと、宿屋の1階に併設されている食堂の机に寄り掛かると私を見てきた。


「トーマスさんと仲が良かったように見えたのでそういう仲だと邪推してしまいました」

「いえいえ! 全然仲なんて良くないですよ? 彼らは私の手伝いじゃなくて仕事を手伝ってもらっているだけですから!」

「仕事?」


 ミューラさんは首を傾げて私の方を見てきた。

 つい、前世が社会人だったこともあり不都合があった場合に社会人という単語を使ってしまったけど……余計な事を言い過ぎたきらいが――。

 実際、ミューラさんは興味を含ませた瞳で私を見てきているわけですし……。

 もう、ここは適当に言葉を取り繕うことと致しましょう。


「はい。一応、孤児院とかそんな感じなのを――」

「こじいん?」


 ミューラさんが首を傾げて私を見てくる。

 そこで私は思い出す。この異世界には弱者を救済するようなセーフティネットが存在していないことに。

 

「簡単に説明いたしますと、身寄りのない生活力のない子供たちを育てるような場所の事です」

「身寄りのない子供?」


 ミューラさんはそう話すとハッ! とした表情で私を見てきた。


「まさか……リエナさんの?」

「はい! そのまさかです……」


 ミューラさんの言葉を肯定すると、彼女は表情を曇らせてしまう。

 

「もしかして、トーマスさんが私を呼びにきたのは……貴女が言う孤児院のことだったんですね?」

「はい」


 私はミューラさんの言葉に頷きながら答える。

 

「そうですか……ということは延長をしたいという事でしょうか? ですが……リエナさんは、両親から引き継いで借りていましたが最近では支払が滞っていましたので、こちらとしても……いくら貧民街だと言っても堀の中で人が住める場所は限られますし、他の借りてる人の手前上、甘く対応するわけにはいかないんです」

「そうですか……」


 私は、腰のベルトに括り付けていたポーチの中から金貨を20枚――全額出すと机の上におく。

 すると、ミューラさんは金貨を見た後に、私へ視線を向けてきた。、

 その表情から察するに事態が好転したとは言えない事は、楽に想像ができる。


「じつは、リエナさんに貸していた建物は、もう古く取り壊しを考えていたんです。ですから契約更新には……」

「建物に関してはエキスパート(ブラウニー)がいますので、問題ありません」

「で、ですが……リエナさんも亡くなられたとレイルさんにお聞きしましたが? そんな状況で賃貸し契約するわけには……「まあ、待ってください!」……え?」


 私は、話していたミューラさんの話の腰を折りながら考える。

 ミューラさんは、こちらがお金を出してもブラウニーが建物を直しても貸し出そうとはしない。

 つまりミューラさんには、それ以上の価値があるものがあるという事になる。

 やれやれ……どうしたものか。


「トーマスさん……」

「え!?」


 私の言葉に、ミューラさんは一瞬呆けた後に私を睨みつけて――。


「物件を――家を貸して頂けるのでしたらトーマスさんとの仲を取りもってもいいです!」

「ユウティーシアさん!?」


 そこでようやく、宿屋の主人であるフェリスさんが驚いて私を見てくる。

 たしかに、アレクともう一人の私の分体であるティアのオロオロ劇場を見ていればフェリスさんが驚愕の眼差しで私を見てくるのは仕方ないとも言える。

 ただし! それは、あくまでも私が記憶を無くしていた時の話であって、今の私とは違う。

 何せ、私の前世は男だったのだ。

 仲を取り持つどころか男性の機微は完璧に分かるし、間違いなく私に任せてもらえれば即落ちだろう! むしろ瞬落ちだって考えらえるまである。


「――!? ほ、本当ですか!?」

「はい! 任せてください。私は恋愛エキスパートですよ!」


 まぁ、男性相手限定ですけど……。

 私の言葉に、ミューラさんは何度か頭を抱えては私を見てからフェリスさんの心配顔を見て考えこんでいる。

 そんな様子が1分ほど続き「わ、わかりました……トーマスさんと恋仲になれたら、こっそり名義を、貴女――ユウティーシアさんにお貸しする事を約束いたします」と、答えてきた。



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