第124話 商工会議を設立しましょう!(14)

 体内の魔力を制御し、【身体強化】の魔法を発動。細胞一つ一つに魔力を供給するイメージにより私の筋力、神経は通常の数十倍まで強化される、それに伴い五感も強化されていく。

 私から離れていくミューラー・ジェネレートの姿を見ながら、地面を軽く蹴り追いかける。

 

「まってください」

「う、うそ……」

 

 わずが1秒で間合いを詰めた私は、ミューラさんの腕を掴んでいた。

 ミューラさには何が起きたか分からないと思うけど――って! ミューラさん顔を真っ青にして体を震わせている!?

 これは、宿屋に連れて行って誤解を解いた方がいいですね。


「ミューラさん、大人しくしていてください。怪我をしても知らないですよ?」

「――だ、だれか……」


 何故かミューラさんがすごく怯えてしまっている。

 きっと私の【身体強化】の魔法が凄すぎて驚いているのでしょう。

 ミューラさんの体を抱き上げると、彼女は抵抗してきたけど2階建の建物の屋根上に跳躍し降り立つと静かになった。

 そして私の首に手を回してきて、お姫様だっこのような恰好になってしまう。

 私と対して身長も変わらない彼女を抱きかかえたまま、私はフェリスさんが女将をしている宿屋に向かった。




 ――5分後


 フェリスさんの宿屋――私が借りてる一室に外から入ろうとしたら窓が閉められていて入れなかった。


「外から入れないですね……」


 これは予想外。

 まさか部屋の木の窓が閉められているとは、たしかに2日も3日も戻って来なかったら部屋の窓を閉めてしまいますよね……。


「仕方ありません。宿屋の入り口から普通に入るとしましょう」


 私は一人呟きながら、ミューラさんを抱いたまま宿屋の道を挟んだ向かい側、建物の屋根上から飛び降りる。

 ミューラさんが叫んでいるけど、少しだけ我慢してもらいましょう。

 地面の上に降り立ったあとは、ミューラさんを下して右腕を掴んだあと引っ張りながら宿屋の扉を開ける。

 宿屋の扉の上部につけられている金属製の鐘が来訪者を知らせるように音を鳴らす。

 すると、フェリスさんが食堂の厨房奥から姿を現すと私を見て近寄ってきた。


「ユウティーシアさん……少しいいかい?」

「は、はい?」


 フェリスさんが私を見る目は依然の剣呑とした瞳とは違っていて、若干和らいでるような印象が……。

 私が曖昧な答えを返したところで。


「ところで……その子って……貧民街の元締めのアルネスト・ジェネレートさんの娘さんよね? どうしてユウティーシアさんと一緒にいるんだい?」

「うう……フェリスさん……私……わたし……この人に告白されて……」

「ええ? 告白してないから!」


 私は、ミューラさんの言葉を否定する。どうして、同じ同姓に告白しないといけないのか。私は、ただ話を聞いて貰いたかっただけなのに……。


「どういうことか、きちんと説明してもらえるかい?」

「……う……あ、はい」

 

 私とミューラさんは、宿屋の1階の食堂と言ってもテーブル4つの椅子が20個ほどしかない空間――その中央の木製テーブル近くの椅子に座る。

 しばらくすると、木のコップを持ったフェリスさんが食堂から出てきて私達の近くに座れるとテーブルの上にコップを3つ置くと、それぞれ私達に差し出してきた。

 中身を見ると少し茶色い色合いをした飲み物。


「カフィですか……」


 ミューラさんが、木のコップに入っている飲み物を見て呟いていた。

 私は、となりで「カフィ」と呟いていたミューラさんの言葉を聞いて少しだけ憂鬱になる。

 カフィは地球で言うところのコーヒーに近いものであり、結構苦くて私は苦手。

 だから、私は貴族寮とか公爵家に居たときには、紅茶で毎日済ませていた。

 それにしても、貴族の時には黒い色だったけど、今、見るのは色合いが茶色と言う事は何かを入れている?

 もしかしたら女性が飲みやすいように砂糖とか……牛乳とか……。

 私は、木のコップを手に取り一口だけ口を付けると、あまりの苦さに咳き込んだ。


「だ、大丈夫かい? 結構、いい茶葉を使ったのだけど……やっぱり貴女には合わなかったのかい?」


 心配そうな顔をしてフェリスさんは私を見てくるけど、せっかく出してもらったお茶を不味いなんて言える度胸が私にあるわけでもなく……となりのミューラさんとか普通に飲んでるし……。

 

「い、いえ! そんなことないです! と……とって美味しそうに見えました」

「そ、そう……」


 何とも言えない表情で私の答えにフェリスさんは、若干声を高くして答えてくるけど、二口目に行く度胸は私にはなかった。


「さて……それで、どうしてミューラさんは、そんな泣きそうな顔をしてユウティーシアさんと一緒にいるんだい?」

「それは私の口から説明させていただきます! 実は、ミューラさんはトーマスさんの事が好き! なんですけど! 私とトーマスさんが仲が良いと勘違いして走って逃げてしまったので建物の賃貸契約更新を含めて詳しくお話しをしたいと思い、落ち着いた場所が宿屋しかなかったため、非常事態ということもあり! ここまでご同行願いました」

「ええー……貴女、女が好きだから宿に連れ込んだんじゃ?」


 私は肩を竦めながら「どうして私が同姓を好きにならないといけないんですか」と、ミューラさんの言葉に反論した。



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