第5話 白い家(研究施設)へのお引っ越し

「白色魔宝石?」

 私は首を傾げながらお父様の方へ視線を向けると、お父様はすぐにポケットに白く輝く石を仕舞って部屋から出ていってしまった。


「お母様?」

 私は、お母様の方へ視線を向ける。

するとお母様は、なんだがとても困ったような表情をしていた。 


「ティア、よく聞くのよ?」

 お母様は、何かを決めた表情で私が寝ているベッドに腰掛けると言葉を紡いできた。


「あれは白色魔宝石と言って、神代時代に作られた魔法師の魔力量の上限を引き上げるマジックアイテムなの。とても貴重な物だから……あと、貴女は魔力が少ないのだから無理に魔法を絶対に使ったらだめよ? 分かったわね?」

 私は、お母様の言葉を聞きながら頷いた。


 でも、お母様の心配を余所に……。


「ティア、今日から1日に一回、この魔力石に魔法を込めるんだ。出来るな?」

 お父様が翌日、部屋に入ってきて1日一個、白色魔宝石を作るように強制してきた。


「……で、でも……お父様、お母様が魔法を使ったらいけないって……」

 私の言葉にお父様は眉間に皺を寄せた。

 

「これは国防の為なのだ。貴族の家に生まれたからには、責務を果たさなければならない。分かるな?」

 お父様の真剣な表情と言葉に私は頷き、白色魔宝石を1個作りだした。

 それを受け取るとお父様は、部屋のドアを開け出ていってしまった。

 

「……」

 どうやら、私は物か何かのように扱われているようだ。

 とても気にいらない。


 翌日から稽古の合間に白色魔宝石を作る仕事が追加された。

 作った白色魔宝石を取りに来るのは、いつもお母様で殆どお父様は顔を見せてない。

 しかもお母様まで、余所余所しくなって私を構ってくれなくなった。

 お母様も眉間にいつも皺を寄せているから私の事がきっと嫌いになったのだろう。

 そんな毎日が続き……。


「ユウティーシア様、少しはレディらしくなってきましたね」

 とアプリコット先生が私を褒めてくれたが別段、うれしいという感情は浮かびあがってこなかった。

 男の精神状態なのに女らしくなってきましたね! と言われてもうれしくなんてない。

 そこで部屋のドアが、ノックされ後にお母様が部屋に入ってきた。


「少しティアを借りられるかしら?」

 お母様の言葉にアプリコット先生は了承すると私をお母様に差し出した。

 私は、お母様に抱きかかえられたまま部屋を後にした。

 抱きかかえらえたまま廊下を移動していると、そこは私が本を借りている部屋だった。お母様は執務室の前に立つと数度ノックをしている。

 しばらくしてから部屋の中からの「入れ」と言うお父様の声が聞こえてくる。

 お母様は、私を抱き抱えたまま足を踏み入れた。


「ティアをしばらく魔法式構築研究所に預ける事になった」

 お父様の言葉にお母様の目が見開かれた。 


「貴方! ティアは研究所には預けないって話しだったでしょう?」


「エレンシア、これは当主としての決断だ。お前が口を出す事ではない!」

 お父様の言葉に、私を抱きかかえるお母様の手が震えているように感じる。

 でも……。

 

「分かりました」

 私は頷く。

 このまま家にいても、ほとんど情報がない。

 それなら少しでも情報がある場所へ行くべきだ。

 それが研究所と呼ばれる所であったとしても……。


 翌日、生まれて初めてシュトロハイム公爵家の館から出られた私は、馬車外の景色を見ながら移動を開始した。

 馬車は市街地を通り、貴族街を通り白い建物の前に停止した。

 建物は、かなり大きく、高さ10メートル横に100メートル以上はある。

 従者の手助けを借りて馬車から下りると一人の男性が近づいてきた。


「ようこそ、リンスノット王国のエルド・フォン・ウラヌスと言います。そしてここは魔法式構築研究所です」

 言葉づかいこそ丁寧に見えるが、その眼はとても冷たい


「それでは、ご息女はこちらでお預かりします」

 男は、馬車の中で座っていた私を抱きかかえ一緒に座っていたお母様を一瞥すると、私を抱いたまま、白い建物の中に扉を開けて中へ足を踏み入れた。


「さて、ユウティーシア。貴方にはしばらく実験につきあってもらいます」

 男は私に笑顔で語りかけてきた。


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