第3話 初めての魔法発動
アプリコット女史より教わる勉強の内容は多岐に亘る。
前世の勉強内に含まれている内容ならまったく問題はないけど、貴族の作法や歩き方に、食事の仕方などは、前世とはまったく違う事もあり覚えるのに苦労する。
私は生粋の日本人と言う事もありスプーンもフォークもほとんど使って来なかった事から音を立てずに食事をするというのがとてもメンドクサイ。
「ティア、音を立てて飲まないの!」
お母様と食事を一緒にしていると、きつく言われてしまう。
「はい、お母様」
私は表情には出さないが、この貴族生活が息苦しくて仕方ない。
しかも婚約者まで決められていて、どうしても家から出たい。
家からは出たいが、この世界の基礎教養が無いから出られないし、いまだに5歳という事もありどうにもならないのだ。
「ティア、今日の予定は?」
私は頭の中にある予定表を思い出す。
「今日は、先生より海洋国家ルグニカの言葉の勉強と言われております」
私の言葉に、お母様が頷き
「そう。海洋国家ルグニカは、奴隷を効率よく使って発展している国だから、色々と学べると思うわ。ティアも人の上に立つのだから、そのへんはきちんと覚えないとだめよ?」
私は、お母様の言葉に頷きながらため息をついていた。
奴隷制度がどれだけ、後の世に禍根を残す制度になるのか、この世界の人間は理解しているのだろうか? それともそこから目を背けているのだろうか?
どちらにしても、私は異世界ハーレム主人公みたく奴隷を購入して何かをしたいとは思っていない。
それどころか、自分が今では美幼女だからな……。
頭痛の種は尽きない。
食事が終わった後に、自室に戻るとベッドの下から、お父様の書斎から失敬してきた本を取り出す。
ベッドに寝転ぶと、本を開き目を通していく。
その本には、この国の主産業が書かれている。
おそらく、この本は軍事機密ではないが商人にとってある程度、必要だから作られているものなのだろう。
本の裏には通し番号が書かれており、それを見る限りでは1万冊ほど作られたようだ。
<i227812|655400>
私が住む、リースノット王国は、人口3万人の小さい国であり、主産業は塩の販売。
それを北の国であるアルドーラ公国に売り、穀倉を購入している形をとっている。
つまり、リースノット王国では農産業はあまり進んでない? と、いうか……。
これを視る限りでは、巨大な盆地内に国がすっぽりと入っているようにみえる。
つまり、ここはアルカリ土壌が高いカルデラの可能性が高い? だから植物育成に向いていない?
ふーむ。もしかしたら火山だった為に、土壌にカルシウムが足りない可能性もある。
私はさらに本を読み進めていく。
そこには、他国までの道筋に海路、陸路が記載されている。
そして商人として仕事をする際には、冒険者と呼ばれる組織に依頼を出すのがベストだと書かれていた。
冒険者か……どこの世界にもあるんだな。
そして本を読み進めていくと、誰でも出来る魔法の練習と書かれた項目が目についた。
私はそれを見ていく。
冒険者になるためには魔法が使える必要があると……。
ただ、私には魔法の才能が無いような事をお父様は言っていた気がするし……。
まあ、小さい頃から魔法の練習をすればもしかしたら魔法が使えるようになるかもしれない。
「えーと……」
私はベッドの上に座ったまま本を見ていく。
本には、道端に落ちている石を手を持って、石を魔力で覆うようなイメージを持ってみましょうと書かれている。
「石か……ないな」
私はベッドの下からガラクタを取り出す。
これは、屋敷から出してもらえない私がせめてもの抵抗としていらない物を集めて隠しているものだ。
「とりあえず、この大理石の燭台で試してみるか?」
大理石も石も石がついているから似たようなものだろうし……。
両手で燭台を持つ。
あとはイメージか……。
体を包むオーラを燭台に集めるイメージでいいのか?
体の中、丹田を通し体中の中を駈け廻りそれが体から吹きあがった後に、体の周囲に押しとどめるイメージ。
そしてそれを呼び水として大気中の力を燭台に収束させ押しとどめる。
目を閉じながら一連の動作をおこなっていると、体の中が熱くなってくる。
そこで、部屋のドアがノックも無しに開かれた。
「ティア!」
お母様が息を切らして中に入ってきたのを見て私の意識は途切れた。
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