第352話

「さてと、仕方ないな――」

「ユウマさん、どちらに?」


 イノンは、俺を見ながら問いかけてくる。


「このままエルフが来るのを待っていたら、大惨事になりそうだからな」

「そ、それは……そうですけど……」


 今のエルフは、理性よりも性欲に傾いている。

 そんな状態で冷静な話し合いが出来る訳がないはずだ……きっと、たぶん。


「ユリカ、エルフ達は俺の匂いに吸い寄せられてきている可能性はあるか?」

「ううん、どうなのかな? でも……」


 ユリカは、話をしながらセイレスの方をチラリと見ると「で、でもユウマさんが触るまでセイレスさんはマトモでしたよね?」と語りかけてくる。


「――ん? セ、セイレスがまとも……だと……?」


 最近のセイレスは、どうだったけかな……。

 少なくてもエルフガーデンにきてからのセイレスがまともだった期間なんてあったか? いや、そもそも俺の中では、リネラスと同じくらい要注意危険人物になりつつあるんだがな……。

 ふむ……どう見てもセイレスがマトモだったことが最近は無いな。


「どうだろうな……セイレスがマトモに見える時点でユリカも大概だと思うが――」

「ええ!? 私にもキラーパスが?」


 まぁユリカもユリカで探偵状態になってる時は大概だったからな。

 なんとも言えん!


「と、とにかくあれです! ユウマさんの体臭! 体臭! 体臭ではなく場所を知ってるから近づいてきていると考えるのが妥当な線かと思います!」


 ユリカは、少し怒った口調で3回も俺の体臭を繰り返し言いながら考えていたことを述べてきたが――少し、言い方に少しだけイラッと来た。


 俺は、少しだけやり返すためにユリカに近づいていく。

 

 するとユリカが「な、なんですか?」と胸元を両手で隠しながら何歩か下がると探偵ごっこをするために椅子から立ち上がっていたユリカは、後ろに置かれたままの椅子に足をぶつけると、そのまま座ってしまう。


「さっきから人の事を臭い臭い臭いと連呼しておいて、どうなるか分かっているだろうな?」

「ど、どうなるか……」


 ユリカがアワワという顔をして言葉にならない言葉を発している。

 そして、その横では呆れた顔をしたリネラスが、「あんた、またどうしようもないことを考えているでしょ?」と話しかけてきた。


「いや、少しな……」


 こういう時は、きちんとしないといけない。

 嫌な事は嫌ときちんとはっきりと言わないとな。

 ふふふ、俺もユリカの匂いを嗅いで感想を言ってやろうではないか。

 さあ、椅子に座ってしまったユリカは自由には動けない!

 あとは近づいて……。


「ああ、そこで押し倒してあーして、こーして、こーするのよ……ね!」 

「しねーよ!」


 思わず後ろから聞こえてきたリンスタットさんの声に俺は突っ込みを入れた。


「あーして、こーしてって何?」


 そんなリンスタットさんの言葉に反応したのは、セレンであった。

 おいおい、まだ10歳にもなっていないお子様にはさすがにリンスタットさんも余計な事は……。


「男女がくんずほぐれずして――んー……」


 俺は咄嗟にリンスタットさんの口を押える。

 さすがに、色々と問題になる発言になってしまう。

 それに子供に聞かせる内容でもない。


「これ、ユウマ」


 リネラスは、ため息交じりにタオルを差し出してくる。

 

「もう大丈夫なのか?」

「大丈夫というか……エルフガーデンのエルフにユウマは一服盛られたんだから仕方ないから。だから今回だけは許してあげるから――」

「そ、そうか……」

「うん……」


 リネラスは、床を見ながら頷いてくる。

 それにしても、どうして俺はリネラスに許してもらわないといけないのか意味が分からないが……。

 まあ、誤解も解けたことだしいいか。

 リネラスから受け取った手ぬぐいを半分にし、一つは丸めてリンスタットさんの口の中に入れ、もう一枚で口元と覆うようにして手ぬぐいを頭の後ろで縛る。


「ユウマく……むーむー」

「さて、これで問題はなくなったな……」

「――で、まだユリカにやり返す予定なの?」

「いや……気分が削がれた」

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