第340話

「ユウマさん、どうかいたしましたか?」


 サマラは、大樹側面から生やしていた木の階段を消しながら俺に話しかけてきた。

 思考したことで突然、無言になってしまった俺を心配してきたかのように、眉元を潜めている。


「いや、なんでもない。それにしても樹上まではかなり距離があるな――」

「はい、ですが……そろそろ到着いたしますので」


 サマラの言葉とおり2分ほど、大樹側面から生えている木の階段を上るとそこには――。

 昼を過ぎてるとは言え、50メートルを超える大樹の上には町が存在していた。

 多くの木々の間を繋げるように、幅3メートルほどの木で造られた道や、2階建ての家々が存在している。

 規模としては、2百棟ほどの建物があることから樹上だけではなく、樹上以外にも家々があることを考えると――。


「ユウマさん、私達は、ここを【樹上の妖精庭園エルフガーデン】と、呼んでいます」


 サマラは、俺の目をまっすぐに見ながら語りかけてきた。


「【樹上の妖精庭園エルフガーデン】か……」


 俺はサマラの言葉を復唱しながらあとをついていく。

 樹上同士を繋いでいる木と蔓で作られた道を歩いていくと思ったよりしっかりとした作りになっていることに気が付く。


「まったく揺れないな……」

「はい。私達エルフガーデンに住まうエルフは、木や草花と言ったエルフに馴染みのある植物から力を借りる魔法に長けていますから――」

「なるほどな……」 

「はい! ユウマさんは、どんな魔法が得意なんですか?」

「どんな魔法と言われてもな……」


 何と説明していいか困ってしまう。

 俺の魔法は、物理現象を頭の中で構築して漢字を思い浮かべる事で発動させる魔法だ。

 普通の魔法師が使う魔法は、魔法陣、詠唱、発動言語が必要になる。

 そしてエルフを見てる限り、魔法を使う際には言葉だけで発動してるように見えた。


「そうだな、俺の魔法は物理現象に沿った魔法だな」

「物理現象に沿った魔法ですか?」


 サマラの言葉に俺は頷く。

 ただ、詳細を説明するのは止めておく。

 こちらの弱点を無闇に教えるのは得策ではないから。


 しばらく歩いていると、樹上の上に存在している建物の中でも一際高い建物が見えてきて――。


「ユウマさん、こちらは展望台です」

「展望台か……」


 俺の言葉にサマラは元気よく「はい!」と、答えてくると俺の腕を掴んできた。


「それではユウマさん、上りましょう?」

「やれやれ――仕方ないな……」


 サマラに腕を引かれるようにして木材だけで作られている螺旋状の階段を上っていく。

 

「おおっ――かなり見晴がいいな」


 塔自体の高さは10メートルほどだが、遮るモノがない樹上の上は遠くまで見える。


 風景は緑一面、海の上に町が存在してるように見えて、夕日の光を反射して、とても神秘的に見えた。


「ユウマさん……」

「――ん?」


 語りかけてきたサマラは、頬を赤らめていて。


「どうしたんだ? 風邪でも引いたのか?」


 俺はサマラの額に手を当てる。

 ふむ……。特に熱はないようだな。

 サマラの頬が赤いのも夕日のせいかもしれない。

 

「そろそろ塔を降りるとするか?」


 すでにサマラは俺の腕を離していたので、階段を降りようとすると洋服の裾を引っ張られてバランスを崩す。

 とっさに、体を反転させたことで押しつぶすような結果にはならなかったが――。

 

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