第331話

 ふふふ、俺は競争をするとは言ったが魔法を使わないとは一言も言っていない。

 【身体強化】魔法を発動し肉体の細胞強度を一気に引き上げる。

 海の迷宮リヴァルアで鍛えられた事で超人的な肉体を持つに至った俺の肉体は魔法で強化された事で、超人を超越した瞬発力、持久力を持つに至る。


「さあ、逝こうか?」


 俺はアンネと言ったエルフの体を抱き上げると地面を蹴って移動する。

 俺に抱き上げられたアンネは一瞬呆けた顔をしたが、俺が蹴った地面が爆発した場面を見て顔を青くした。

 さらに、地面を踏み込みトップスピードに乗った瞬間、音速の壁を突破し、衝撃波が形成され周囲の木々を薙ぎ払う。


「ええっ? 大樹が宙を舞って――!? そ、そんな……こ、こんなの嘘でしょう?」


 魂が抜けたように茫然と呟いているアンネを無視して俺は移動を開始した。


 最初は、アンネが震えた口調で「だ、だがユウマ殿――こ、ここ、この程度の速度ではエルフ族には追いつけはし、しないぞ!?」と叫んでいたが、途中からは、「ま、待ってくだひゃい! ら、らめえええ」という口調に変化し、最後には、「アワワ」と言葉にならない言葉を呟いていた。


 【探索】の魔法を発動し、先行しているエルフ達までの距離を調べた後にエルフ達との距離を縮めていく。

 

 音速の壁を瞬間的に超えて移動をしている俺と比べて、エルフ達の移動速度は成人男性が走る速度より若干早いくらいだ。

 すぐにエルフ達との距離は詰まっていく。

 

 俺は、ブツブツと呟いているアンネを抱き上げたまま森の中を走っていく。

 

「大丈夫か?体調が悪いようだが少し移動速度落とすか?」

「――!? だ、大丈夫です!」


 アンネは、身体を震わせながらも俺の問いかけに答えてくる。

 

「そうか? なら少し速度を上げるか――」

「!? ま、待ってください! これ以上、早く走るとエルフガーデンの木々に影響が出たりしますので――あまり早く走らない方がいいかと……お、思います! で、ですから! は、早く走らないでください!」

「ふむ――」


 俺はチラッと通ってきた道を振り返る。

 すると通ってきた森の木々が倒れていた。


「たしかに……」


 俺は、速度を緩めることはせずに一人呟き森の中を駆け先行してるエルフ達との距離が100メートルを切ったところで移動速度を落としつつアンネに掛けていた【身体強化】の魔法も一緒に解除する。


 一気に移動速度が落ちたところで、先行していた3人のエルフを追い抜いた。 


「う、うそ……」

「まったく気配を感じな――」

「え……そ、そんな……」


 3人のエルフ達は、それぞれ溜息をつきながら呟いているが――。


「さて、まだ勝負をするか?」

「い、いえ――」


 俺の問いかけにアンネは、首を横に振りながら諦めたように項垂れてきた。

 



 ――10分後


 俺と案内人であるエルフ達は、ようやくエルフガーデンの村の入り口へと差し掛かった。  エルフガーデンに住まうエルフの村は、20メートルを超える大樹の中をくり抜いた中に家に住んでいるようだ。


「ここがエルフガーデン――エルフが住まう村か……」


 俺の言葉に「はい、そうなります」と、アンネが頷きながら答えてきた。

 エルフガーデンの村の中に入ると大半の家は、地面より遥かに高い位置に住居を構えており木の外周に沿って階段が住居まで続いてる様子が見て取れる。

 そして樹上には、木の橋が巨木と巨木を繋いでおり樹上に町が形成されているようだ。

 

 俺は、疲れきったエルフ達を横目で見ながら「で、これからどうするんだ?」と、聞くとアンネはエルフの村の奥を指さし「族長は、この先の広場で待っています」と告げてきた。

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