第299話

「……そ、そうか……私は、私は……」


 それだけ言うと、目の前のメモリーズ・ファミリーはその姿を光の粒子と化し消滅した。





 ――メモリーズ・ファミリーの花畑で目を覚ました翌日。


 俺は一人納得できずに帆馬車の馬の手綱を握っていた。

 結局、なんだかんだうやむやのまま倒しきれずに勝手に消えてしまって、はっきり言わせてもらえば消化不良。


「ユウマさん、少しいいですか?」

「ん? ユリカか……別にいいが……それよりもリネラス達の容体はどうだ?」

「はい、大丈夫です。メモリーズ・ファミリーの球根は食べられるとセイレスさんが教えてくれましたから」

「それもエルフの知識か?」

「いいえ、エルフが持つ植物の気持ちを感受する力みたいなものだと思います」


 なるほどな……。

 俺は帆馬車の中をチラッと見る。

 そこには赤と青の色をしたメモリーズ・ファミリーではなく青色の花弁をした青空のようなメモリーズ・ファミリーが何十個と詰んである。

 味はジャガイモと大差はない。


「それよりも、ユウマさんは不機嫌ですね?」

「まぁな……」


 俺は少しばかり不機嫌に答える。

 だいたい、最後の戦いなら最後まで全力で戦ってほしいものだ。

 それなのに、勝手に解釈して勝手に納得して浄化して消えるなんて俺の立場がまるでないじゃないか。


「それで原因は分かったのか?」


 仕方なく俺は話題を転換することにするが……。


「そうですね。私が両親からもらった植物図鑑によりますと……メモリーズ・ファミリーは元々、農作物が取れない水が少ない場所で、取れるようにジャガイモを改良した物みたいです、そして人の記憶を読み取って過去の記憶を追体験させる力を持ったのは偶然だったみたいですね」


 ユリカが俺に植物図鑑を見せてくる。

 そこには、メモリーズ・ファミリーを作ったのは初代冒険者ギルド創立メンバー ラン・フェイフォンと記載されている。


「初代冒険者ギルドメンバーか……」

「どうかされたんですか?」


 ユリカの言葉に俺は「なんでもない」とだけ答える。


「そういえばユウマさん、セイレスさんがメモリーズ・ファミリーは人の記憶を読み取って過去の楽しかった頃の思い出を見せるのが副産物として付与されたらしいですけど、あくまでもジャガイモを改良しただけの物なので人の感情を見てる間に、人の感情に耐えられなくなって暴走したのでは?と仮説を黒板に書いて私達に見せてきました」

「なるほど……つまり、人間の感情を何度も見せられた事で耐えられなくなって人が嫌いになって、それすら忘れて暴走して人に害を与える存在になったと?」

「みたいです」


 ふむ……かなりこじつけな理論な気がするが、深く考えても仕方ないだろうな。

 それに……。


 町が消滅し花畑に代わる瞬間、「感謝してくれて、ありがとう」なんて言われたからな。

 

「そういえば、ユウマさん」

「ん? なんだ?」

「私、気を失うときに誰かに感謝された気がするんですけど……」


 ユリカが首を傾げながら俺に問うてくる。


「気のせいだろ! 感謝なら帆馬車の中に転がってるだろうしな」


 俺は、メモリーズ・ファミリーを指差してユリカの問いかけに答えながら、帆馬車の手綱を握りながらエルフガーデンに向けて帆馬車を走らせた。

 

 そして――その帆馬車の後ろ姿を青く光輝くメモリーズ・ファミリーの花々が見送った。





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