第218話

「まぁ、いいが……」


 どうせ、セレンとリネラスはカウンターに座って話をしているのだ。

 急ぐ要件でもないし、あとでも問題ないだろう。


「分かった。どこで話す?」


 俺の言葉を肯定と受け取ったセイレスは、俺の手を握ると歩き出す。

 しばらく歩くと、そこはセレンの隣の部屋――セイレスの部屋。


 セイレスは扉を開けると俺の手を引いてくる。

 女性の部屋に入るのに一瞬、躊躇してしまうが、俺の腕を掴んできているセイレスの手を振りほどく事もできず部屋の中に入る。


 部屋の中は、俺の部屋と大差はなくテーブルが一つに椅子が2脚、そしてベッドが2つの具合だ。

 俺はセイレスが勧めてきてくれた椅子に座ると、セイレスはテーブルを挟んだ向かい側に座った。


 俺は何か要があるのかと構えていたが、セイレスは黙々とテーブルの上に置いてあるポットからカップに中身を注ぐと俺へと差し出してくる。


「……すまないな」


 俺の言葉にセイレスは黙って、かぶりを振ってくる。

 そして黒板に文字を書くと、そこには「クルド公爵邸で助けて頂きましてありがとうございました」と書かれていた。

 小さく俺は溜息をつく。


「気にすることはない――成り行きだからな」


 俺の言葉に彼女はまた黒板を見せてくる。

 黒板には「妹だけではなく、私までも助けて頂きまして……」と、書かれている。

 おそらく、俺が何を言っても自分の意見を曲げてはこないと俺は直感した。


「分かった! まぁ……あれだ。リネラスやイノンと一緒に冒険者ギルドを盛りたててくれればいいからさ」


 すると、セイレスがチョークで書いて見せてきた黒板には、「それだけでは私の気が修まりません!」と、書かれていた。

 俺は、黒板を見て溜息をつく。


「まぁ、気にするなとは言わないが、別にそんなに気にする事でもない。俺は俺の出来ることをしただけだし、お前の力を宛てにしていたってのもあるからな。だからお互い様だよ」


 俺は、そろそろ宿屋のホールに戻ろうと席から立ち上がりながらセイレスに告げると、セイレスは慌てたように立ち上がって俺に抱きついてくるとベッドに俺を押し倒してきた。

 そして、俺の上に乗ってくると……。


 ――黒板を見せてくる。

 そこには――。


「やめておけ!」


 俺はつい命令口調でセイレスに告げる。

 そして強く抱きしめて頭を撫でながら、「お礼に自分を好きにしてください」か……と読んだ内容を口にする。


「自分の体を差し出して、お礼をか? 誰もそんなのは求めていない。そんなのは誰も望んでないし、いい事だってない。そんなのは……自分自身を下げる事だ。それは、セイレス! お前を大事に思っている人を裏切る行為に繋がるんだぞ?」

「……」

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