第183話
「お前は来るんだよ! お前の友達のセイレスは俺じゃ見分けがつかないんだ」
「嫌! 死にたくないし! 特徴教えるから! 長い紫色の髪にスレンダーな体の17歳くらいの美少女だって!」
「往生際が悪いぞ! 迅速に物事を進めるためにリネラスが来る必要があるんだ。それじゃ、イノン行ってくる」
「まって! ユウマ! 私も! 私も一般人だから! 一般人だから!」
リネラスが何か騒いでいるが後で相手をしてやろう。
俺は、頭の中で物理現象を組み上げ想像する。
そして、【身体強化】の魔法を発動。
その効果を密着しているリネラスにまで及ぼして、その場から走り始める。
踏み込んだ大地は陥没し、破砕する。
俺は即、踏み込む場所の地面の原子構成組み替え金属結合を行い鉄へと変貌させる。
鉄に変換された大地を力強く踏み込みながら、少しずつ走る速度を上げていき、すぐに移動速度は音速の壁を突破した。
音の壁を突破した余波であるソニックブームにより周囲が破壊された場所で、ユウマの姿が消えたあとにイノンは一人取り残されていた。
――数分後。
「ユウマ、ユウマ、これって一体なんて魔法なの?」
最初は、移動速度に驚いて震えていたリネラスであったが慣れてきたのだろう。
何度も俺に話しかけてくる。
「リネラス、静かにしていろ! 何かあったら舌を噛むぞ!」
俺にはリネラスの言葉に反応している余裕はない。
一人だけなら問題ない【身体強化】の魔法が、2人になるだけで難易度が桁違いに跳ねあがっているのだ。
音速を超える移動速度のままで【身体強化】の魔法が解除されれば大変な事になる。
そこで、俺の【探索】の魔法が反応する。
俺はとっさに移動速度を緩める。
「くそっ! もう少しで目的地だったんだが!」
時速700キロメートルまで減速した所で俺は、地面を蹴りつけ【身体強化】の魔法で強化した両足を犠牲にして停止する。
そしてすぐに【肉体修復】の魔法を発動。
細胞分裂を強制的に行い、肉体を修復させ両足を完治させた所で、土を高圧縮した厚さ3メートルはある土壁を3枚作り出す。
「矢?」
俺は飛んできた物を見ながら呟く。
俺が視認した矢は俺の作り出した10センチの鉄の塊と同程度の強度を誇る壁と接触した瞬間、1枚目の壁を粉々に破壊した後、2枚目も破壊する。
「マズい!? リネラス! 飛ぶぞ」
「え!?」
リネラスが声を発したと同時に横に飛ぶ。
そして3枚目の土壁が粉砕された後、飛翔してきた矢は地面に接触すると地面を吹き飛ばした。
俺は吹き飛んできた土や石などから逃れるために、その場からさらに距離を取る。
「ユウマ! これは、弓士アンゼです。ギルドに上がっていた情報によると射程距離は10キロメートルと言われていました」
10キロメートル? 【探索】の魔法はせいぜい3キロメートルまでの感知が限界だぞ?
さらに俺の【探索】魔法範囲に複数の光点が表示される。
その数は200もあり、すべてが俺を狙って向かってきている。
仕方無い……。
「リネラス、絶対にしゃべるなよ!」
【身体強化】の魔法を最大まで引き上げる。
さて、少し本気でいくぞ!
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