第166話

「やれやれ、仕方無いな……」

 俺は、帆馬車を追っているワイバーンに向けて手を向けて、魔法が発動する際のプロセスと発動内容と現象を頭の中で組み立てていく。

 そして、魔法を発動させようとしたところで――。


「ユウマ、待って!」

「どうかしたのか?」


 魔法発動直前で止められた事で、魔法現象イメージが霧散し魔法発動条件が解除される。

 

「ちょっと……こっち来て!」


 リネラスが俺を手招きしてくる。

 俺は帆馬車の安否が気になりながらもリネラスに近づき宿屋の入り口に足を踏み入れた。


「あ!? どこに? どこに行ったんだ?」


 宿屋に足を踏み入れた途端、動揺を隠しきれない男の声が背後から聞こえてきた。

 俺は首を傾げながら後ろを振り返る。

 すると、俺の目の前を全力疾走する帆馬車が通り過ぎていく。

 そして、その後を追うようにワイバーンも俺の前を飛翔し通り過ぎる。


「リネラス。どういうことだ?」


 俺は振り返りつつもリネラスに問いただす。


「えっとね! 冒険者ギルドの建物って町の外で設置した場合には自動的に隠蔽の魔法が掛るようになっているの。鼻が効く魔物や魔力に敏感な魔物には効かないけど悪意ある人間を含んだ生物からは身を守る事が出来るの」

「なるほど……それも冒険者ギルドマスターの特権と言う奴か?」


 俺の言葉にリネラスは頷いてくる。

 俺は首を回しながら帆馬車の方へ視線を向けると、突然消えた俺のことを宛てにしていたのか、この建物の周囲をワイバーンから逃げながら帆馬車を走らせている。

 

 ただ、全力疾走に近いからなのか馬はもう限界のように見える。

 放置しておいていいのだろうか?

 俺がジッと帆馬車の方へ視線を向けてるのに気がついたリネラスが俺の背中を何度か軽く叩いてくる。


「ユウマ、あれはコーデル商会のハインツよ。助ける必要なんてないわ」


 ふむ……。

 俺は、【身体強化】の魔法を発動してから帆馬車の従者をジッと見ながら確認していく。すると、リネラスが言ったように冒険者ギルドで俺に絡んできた男、ハインツで間違いなかった。


「たしかに、冒険者ギルドで俺に絡んできてリネラスを罵倒してきた男に間違いないな」

「そうでしょう?」

「ああ……それなら放置でもいいな! まずは、お茶を飲んで一休みしてからワイバーンが立ち去っていなかったら対処するかどうか考えるか……」


 俺の言葉にリネラスは同意してくるが、イノンは『ええええ!? 助けないんですか?』という言いながら俺を見てくる。


 助けないんですかと聞かれてもな……。

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