第三章 幕間 進撃の魔王アリア
第161話
スライムに乗りながら森の中を移動するユウマの妹アリア。
彼女の周囲の森の雰囲気が急速に悪化しつつあった。
「(これは……)」
「どうしたの?スラちゃん」
テイマーとしての能力も保有してるがゆえに契約獣魔であるスライムの機微を感じ取ったアリアは、スライムに話しかけた。
「(どうやら、そうとう危険な魔物がフィールドダンジョンからユウマ村に向かっているようだな。我々の方にも何千体か近づいてきている。このままでは数日持たずにユウマ村は人が誰も存在しない廃墟と化すやもしれん)」
「ふーん。とりあえず、お兄ちゃんセンサーによると匂いがアッチに続いてるから先を急ぎましょ」
アリアは、スライムから聞いた話にまったく興味が沸かなかった。
「(……よいのか?自らの親や知り合いが魔物に殺されるかも知れないのだぞ?戻らなくてよいのか?)」
スライムの話を聞きながらアリアは、座っていたスライムの上に横になる。
「スラちゃんは、分かってませんね。その時はその時ですよ。大体、自分の保身の事しか考えてない親とか都合のいい時だけ持ち上げてくる村の人間とか別に死んでも何とも思いません。だってあんなの救う価値なんてないじゃないですか?」
「(……)」
「スラちゃんは、妙な所で甘いですよね。まるで、お兄ちゃんみたいです。そんなんじゃ自分が傷つくだけなのです。それにお兄ちゃんが村から出た今が2人きりになる好機なのに……どうして他人のために自分を犠牲にするか分かりません。私は私が大事ですしお兄ちゃんには私が必要なのです。そこに他人は存在しなくてもいいのですよ」
「(……)」
「あれです。村人が全員殺されればお兄ちゃんを苛めていた連中が消えるから、私としては死んでもらった方がいいんですけど、お兄ちゃんが悲しむかも知れませんからスラちゃんの提案に許可を出したんですからね?」
「(うむー)」
アリアにとって、村人というのは兄の力を宛てにして群がってきた寄生虫でしかなかった。
都合が悪くなればすぐ、お兄ちゃんに罪を擦りつけて文句を言ってくる。
それなのに、お兄ちゃんが頑張ってもそれが当然のように考える村人にアリアは毎日殺意を覚えていた。教会で勉強を教えていた知的なお兄ちゃんを、何人もの女達が羨望の眼差しで見ていたのに気がついた時には、ハエを全員殺そうと思った。
でも、お兄ちゃんが悲しむかも知れないから我慢した。
そして、教会で教える役をリリナに任せる事にした。もちろんお兄ちゃんを説得した。
最初の数年はうまくいっていた。
ハエがお兄ちゃんに集るのを阻止できたと思ったのに……。
「(アリア!気をつけよ。魔物がくるぞ!)」
意思疎通により、アリアの眼前から骸骨に丸盾(ラウンドシールド)と幅広(ブロード)の剣(ソード)を持つ魔物たちが数百体、森の中から姿を現した。
現れた方向はお兄ちゃんが向かった方向。
そんなに私の邪魔をしたいの?
「お兄ちゃんの匂いをお前たちの腐臭で消すな!!」
アリアは怒りのあまり吼えた。
こいつらは許さない。
一匹残らず駆逐してやる。
「スラちゃん、戦闘モードに移行。全ての魔物を食らって!」
「(だがそれをすれば我と魔力バイパスが繋がっているユウマにも負担がかかるやも知れぬぞ?)」
「大丈夫です。私には分かるのです。お兄ちゃんはこの程度の魔物なら問題ないのです。さあ、蹂躙するのです!分裂するのです!」
アリアの言葉に森の中を進みながら色々な物を吸収し20メートル近くまで巨大化していたスライムが弾け飛ぶ。その数は400体。
そして戦いは一瞬で終わった。
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