フェンデイカ村 最大の危機 ゼノンSide

第139話


 煌びやかな調度品が並べられており、およそ執務室とはかけ離れた部屋でネイルド公爵家当主エイゼン・フォン・ネイルドは怒りを押さえらずにいた。

 

「どういうことだと聞いている!」


 エイゼンは、報告に来たマリウスの部下であるゼノンに自身が飲んでいたワインが入ったままの盃をなげつけた。

 まだ銀製の盃はゼノンの額にあたり、ゼノンの額から血が流れ赤色の絨毯の汚していく。


「マリウスがたった一人の魔法師に殺されただと? 貴様らは何をしていた!200人以上もその場にいた兵士は飾りか? しかも手を出したら私を殺すだと? ふざけてるのか?たかが魔法師一人でどうにか出来ると思っておるのか!こちらには、怪力無双のラグルドに魔法師殺しのヴァルド、そして瞬殺の殺し屋ガルムが控えているのだぞ? この私がたかが魔法師一人に屈したなどと思われるなど屈辱の極みだ!」

「ですが、エイゼン様。ユウマと言う男は普通の魔法師ではありません。ここは慎重に事を運んだ方がよろしいかと思われます」


 ゼノンの言葉にエイゼンは何を馬鹿な事と見下す。

 そして畏まっていたゼノンの頭を踏みつける。


「何が慎重にことを運んだほうがいいだと? もうよい! 貴様は隊に戻って軍を纏めいつでも出陣できるようにしておけ。 残りの4魔将で我がネイルド公爵家をコケにしたユウマと言う男を殺してやろう!」


 エイゼンは、執務室の扉を開けると部屋から出ていく。

 その後を、ゼノンは追いかける。


「お待ちください! あの者は危険です。先ほどもご報告しましたが20人の騎士が一瞬で殺されたのです」

「それがどうした? なら公爵家の全軍1万5000の軍勢を持ってして攻めればいいではないか? 個人の武勇が、どれほど優れていようと古来より数に勝る事はない!」


 エイゼンの言葉にゼノンは顔色を変えた。

 個の武勇?あれが?

 エイゼン様は勘違いしておられる。あれは……そんな生易しい物ではない。

 ゼノンがエイゼンを如何にして思いとどまらせようと考えていると、ネイレド公爵家に仕えている一人の騎士が、走り寄ってくるとネイレド公爵当主エイゼンの前で片膝をつく。


「エイゼン様、ガムル様より重要なお話があるとの事です」

「なんだ?」


 エイゼンは苛立ちを抑えようともせずに騎士に怒りの眼差しを向ける。

 矛先が若い騎士に向かう所で青い髪をした片目の男が姿を現した。


「ネイルド様、火急に申したい事ができましてお伺いしました」

「ガルムか? どうかしたのか?」


 現れた男の姿を見るなりエイゼンは少しだけ落ち着きを取りもどした。


「マリウスに続きまして、ヴァルドとラグルドまでユウマと言う男に返り討ちに会いました」

 

 ガムルの言葉に室内が静寂に包まれる。

 ゼノンはやはりと思う。

 あれは、一人で何とか出来る存在ではない。

 恐らく万全な状態でネイレド公爵家の戦力をぶつけても勝つことは難しかったはずだ。


「――そ、それは本当なのか?」

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