第140話

ゼノンの前に慌てふためき樽のような腹をしたエイゼンが後ろによろめくと椅子にその体を預けた。


「間違いありません。おそらくユウマと言う男、他国の冒険者ギルドの者だと思われます。おそらくは本部の冒険者ギルドの可能性も……」

「ばかな!? 冒険者ギルド本部が干渉してくるだと? 先の大戦でも中立であっただろうに!」

「わかりませんが、こちらが冒険者ギルドマスターを殺している事が露見した可能性があります。こうもSランク冒険者が返り討ちに遭っている事を考えますとそれしか考えられません」


 ガムルの言葉にエイゼンは歯軋りをする。

 冒険者ギルド本部が保有しているSランク冒険者は、各国の冒険者ギルドに所属しているSランク冒険者10人分の力があるという。

 

「ガムル、もし本部のSランク冒険者ならば勝てるか?」

 

 エイゼンの言葉に、ガムルは頷く。


「はい、公爵家の全兵力と寄り子である貴族家全ての兵力3万を当て消耗したところで私の瞬殺剣で首を刈れば問題ないかと」


 ガルムの提案にエイゼン公爵は自己の保身を考えてしまう。

 もし身を守る者が減ればユリーシャ派の抵抗軍に攻められる可能性もある。

 

「だ、だが……それでは私を守るものが……」

「そこに使えない男がいるではありませんか? ゼノン、貴様でも公爵様を守るくらいは出来るな?」


 ゼノンは考える。

 間違いなく、ユウマと言う男は冒険者ではない。

 そして、あれと正面から戦って勝てるとは光景が思い浮かばない。

 ならここは、頷いておいたほうがいい。


「はい、お任せください。それと一人だけですと警備に支障があります。先のマリウス様が連れていった200人の兵士は、この館の守備に専念させて頂けませんでしょうか?」


 ゼノンは、部下だけでも助けたかった。

 あれに挑んでは数の優位性など意味がないと理解出来てしまうからだ。


「よかろう。ゼノンよ、先ほどの話聞き届ける。私と公爵邸の警備を任せたぞ」

「はっ!この一命に代えましても……」


 頭を下げたままゼノンはホッと一息つく。

 これでまだ長生きできると……。


「それでは、私は軍編成を行い、すぐにでもユウマと言う冒険者を始末してきます」

 

 ガムルは部屋から出ていくとすぐに兵士を集めるために指示を出していく。

 支配下にある貴族家から兵士を召集し軍を編成する。


 目指す場所は、ネイルド公爵領北部に位置する人口1500人程度の村フェンデイカ。

 村を守る壁すら存在しない村へ3万を超える大軍が進軍を開始した。

 



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