第132話

 俺は静かに頷くと理解した。

 きっと広場の積み重なっていた遺体の中にイノンの両親がいたのだろう。

 どおりでひどい顔なはずだ。

 ありありと疲れと悲しみと苦痛をない交ぜにした表情をしている。

 それなのに無理に笑っているのが余計に痛々しい。


「今日は食事と風呂はいいから俺達は早く寝る」

 

だからお前もさっさと寝ろよ?と思う。


「わかりました。それではユウマさんのお部屋はこちらになります」

 

 イノンの後を俺はついていく。

 部屋は2階の角部屋か、悪くはないな。

 部屋に入ると2つのベッドとテーブルが一つと木で作られた椅子が3脚置いてあった。


「早く寝るようにな」

「はい、ユウマさんもお休みください」


 イノンの返答を聞いた俺は、部屋に入り扉を閉めた。

 俺は【浄化】の魔法を発動させる。

 そして体中を洗浄したところで突然、体中の魔力が抜けていく感覚を味わう。

 

 ふらつく俺はベッドの上で横になる。

 どうやら俺もかなり疲れているようだ。

 そりゃ、今日一日で何人もこの手にかけてきたのだから仕方ないだろう。


 翌朝、目を覚めると魔力は完全に回復していた。

 さて、今日から仕事でもするか。

 布団から出ようとすると何かやわらかい物を揉んでしまった。

 視線を向けるとそこには、一糸纏わない女リネラスが寝ていた。


「……ん……ユウマ。おやよう、昨日はすごかったよ」


 昨日はすごかったよ?すごかったよ?すごかったよ?リネラスの言葉が頭の中でリフレインする。

 すぐに自分の服装を確かめるが乱れた様子はない。


「おい、冗談はよしておけ」

「ぶーっ。それじゃユウマ、またギルドでねー」


 それだけ言うとリネラスは洋服を着て部屋から出て行ってしまった。

 まったく悪びれもなく出ていくとは……。


「イノン、仕事に行ってくる」


 宿屋のホールではイノンが受付嬢をしていたので声をかけて外に出ようとすると……。


「ユウマさん、これをどうぞ」


 差し出されたのは草で編まれたバスケットであった。

 俺はそれを受け取りながら宿屋を出た。

 昨日受注したギルドの依頼書を見ながら村の南側へ歩いていき草原をしばらく歩くとワサワサと動く奇妙な生物がいた。

 地球で言えばハエトリソウを2メートルまで巨大化させた奴が無数に歩いていると言ったほうが分かりやすいだろう。

 たしか植物は地下にまで根を生やすって聞いたことがあるが、動いている場合ってどうなんだろうな?

 だが、念のためにきちんと殲滅しておいた方がいいだろうな。

 核爆発では範囲が強すぎるし放射能の問題もある。

 それなら割合を変えていくのがベストだろう。

 頭の中で構成を組み上げ事象に干渉する。

 発動するのは【中性子線】の魔法。

 発動数秒前にありたっけの魔力で水を精製し体を覆う。

 そして魔法発動と同時に俺以外の全ての生物がその場で息絶えた。



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