第109話

 俺は沼地に手を向ける。

 頭に描くは事象の変換、組み上げるは分子の調律。


【濾過】の魔法を発動。

 魔法発動と同時に

 沼の水が目に見えて澄んでいき底が見えて来たところで俺は吐いた。

 動物の死骸が底に沈殿していた。

 こんなのが沈んでいた水をエルスは飲んでいたのか?

 よく平気でいられると感心してしまう。

 俺にはとてもではないかが耐えられない。


【極大火炎】の魔法を発動。

 以前、アライ村で露天風呂を作った要領で、摂氏3000度、直径40メートルを越す巨大な炎の塊を操作していき沼をそして死骸を蒸発させ消滅させた。

 次に編むのは以前に井戸を作った魔法を応用する術式。


【湧水】の魔法を発動する。

 地殻や大地を弄った為、村全体に地鳴りが鳴り響いていく。

 そして……沼跡の底に亀裂が入ると同時に澄んだ湧水が噴出す。

 それは見る見るうちに沼だった場所を満たしていった。

 まだ湧水が沼だった場所を満たすまでには時間がかかりそうだったので瓶の中に魔法で作り出した水を入れて俺はエルスの家に戻った。

 

 エルスの家に戻り台所に瓶を置いたあと、食料をチェックしていく。

 どれも品質が悪い。

 半分腐りかけの物ばかりだ。

 一体、どういう生活をエルスは送っているのだろうか?


 仕方ないな……おかしいと思われない範囲で動物でも狩ってくるか。

 俺は家を出て山の中に入り鳥を3羽捕り家に戻った。


「まだエルスは戻ってきていないのか?」

 俺は一人呟きながら献立を考える。

 鳥はウズラに近い品種のようにも見える。


「この鳥に麦飯をつめて蒸すか……」


 料理を始めて2時間ほどで料理が完成した。

 そしてテーブルの上に並べているとエルスが戻ってきた。


「ただいまー、疲れたー」


 エルスはずいぶんと疲れているようだ。

 とりあえず居候の身である以上、家事くらいはしてやるか。


「ご飯にするか?」


 俺の言葉にエルスがテーブルの上に置かれている料理を見て驚いている。

 料理と俺の顔を交互に見てから口を開いた。


「ええ!どうして鳥を捕ってこられるの?」


 驚いた表情で俺をみてきているエルスに向けて――。

 

「元は猟師だからな、このくらいは序の口だ」


 ――と、説明する。


「ふーん……そうなんだ。それで水は汲んできてくれたの?」

「ああ、そこの瓶に汲んできておいた」


 エルスが瓶の中を覗き見る。


「え? 何これ! これ池で汲んできた水なの!?」

「ああ、そうだがそれがどうかしたのか?」

「だって村の池ってもっと汚くなかった?」

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