第72話

 たしかに、リリナと仲良くする条件で石灰岩が落ちている場所をヤンクルさんに教えてもらっていたな。

 川にもまったく行ってなかったから遭遇してなくて忘れていたわ。


「……ユウマ君、娘が居る場所に心当たりはあるかな?」

 俺は川でリリナに何度か会っていた事を思い出す。

 もしかしたらリリナは川に居るのかも知れない。


「そうですね、俺はリリナと何度か川縁であったのでもしかしたらそこに居るかも知れません」


「そうか!助かるよ。ありがとう」

 ヤンクルさんはすぐに川へ向かって走っていった。

 それと入れ替わりに親父が家に戻ってきた。


「どうしたユウマ?こんな所に立っていたら濡れるぞ?」

 親父は家の中に入ると何やら考え込んだ後。


「そういえば、ヤンクルさんの娘さんが谷の方へ向かっていったがユウマは何か約束でもしていたのか?」

 俺は親父の言葉を聞きながら頭を振る。

 そんな約束なんかしてないし第一、ここ最近会ったことすらない。


「そうか、なら良いんだがお前が集めてる白い石ころと同じような物を抱えてるのをここ何日か見ていたからな。てっきり一緒に遊んでるとばかり……」

 親父の話の途中で俺は立ち上がった。

 この雨の中、崖がある場所に向かった?

 それは……かなり危険だ。

 何せ、植物の根が張ってない土が剥き出しの崖でいつ崩れるか分からない。


「少し出かけてくる!」

 俺は戸口を空けて家の外に出る。

 風はそこまで強くはないが雨音がかなり強くなってきている。

 後ろから『ユウマ、どうかしたのか?』と親父から問われるが確証が無い以上、大人を集めてくださいとは言えない。

 第一、危険予測が出来る子供なんておかしいと思われるだろう。


「くそっ!……」

 俺は悪態をつきながら石灰岩が落ちてる谷まで走る。

 そして、リリナの姿を見つけた。

 

「ユウマくん……」

 リリナは両手に石灰岩を抱えていた。

 そして顔を真っ赤に染めあげていく。

 

「リリナ!ここは危険だ。すぐに村に戻るぞ!」

 俺はリリナの腕を掴む。

 唐突の事だったのかリリナが抱えていた石灰岩は地面の上に零れ落ちた。

 リリナはそれを拾うとしたが、俺はリリナを引っ張る。


「ここは危険なんだ、いつ崖が崩れるか分からない。だからそんな物よりも「そんなものじゃないよ!」……」

 いつもと違うリリナの反応に俺は唖然としてしまった。

 だって目の前にいるリリナは涙をポロポロ零していたからだ。


「……だ、だって…ユウマくんに私、酷いこといっぱいしたから……ユウマくんが一生懸命集めてた白い石を渡せば仲直りできると思ったから……」

 俺は目を伏せてしまった。

 俺は契約という形でリリナと仲良くしようと思ったが、リリナはそうじゃなかった。

 ヤンクルさんの言うとおり不器用だっただけなのだろう。

 それでも謝って損したという捨てセリフは後で追及しなければいけないが……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る