第70話

「やめろ!それしたら今度こそ許さないんだからなああああ」

 俺は必死に懇願したが所詮は犬畜生で意味を成さない。


 キツネにおしっこをかけられながら、心の中でいつかこの犬畜生どもを駆逐することを固く心に誓った。

 そして昨日の焼き直しのように体を川で洗って家に帰って母親に怒られた。

 理不尽すぎて何とも言えない。


 翌朝、家の周りの草むしりをしていると男性に声をかけられた。


「ユウマ君、少しいいかな?」

 男性はヤンクルさんだった。

 ヤンクルさんは元冒険者と言う知識や経験もあるからか、以前にこの村にいた猟師の人よりも腕がいい。おかげで最近は肉がたくさん食べられるようになった

 ヤンクルさんの家に行った事はないけど、娘があれだけいい服を着ているのだから俺よりもいい生活を送っていると思われる。


「いいですけど、どうかしたんですか?」


「実はね、娘のリリナのことなんだけどね。君と仲直りできなくて落ち込んでるんだよ。仲良くしてあげてくれないかな?」

 仲良くって、あいつから俺に殴り掛かってきてるんですけど?

 そんな暴力振るう人と仲良くするとか無理です。

 俺が黙っているとヤンクルさんは懐に手を入れると白い塊を俺に差し出してきた。


「娘からの話で大体の事情は理解しているよ、だからこれで手を打ってくれないか?」

 俺はヤンクルさんから白い塊を受け取る。

そして首を傾げる。


「これは何ですか?」

 俺の言葉にヤンクルさんは頷くと、もう一つ懐から白い塊を取り出して近くの木の表面にひらがなを書いた。

 書かれたひらがなの文字の色は白い。

 まるで、昔みた石灰岩で作られたチョークのようだ。


「これは、どこにでも文字が書ける物だよ」

 ヤンクルさんの言葉に、なるほどと俺は頷きながら思い出す。

 たしか……コンクリートの素材となる3つの要素、それは砂利とセメントと水だ。

 そしてセメントの主成分は石灰……。

 石灰が手に入るなら現代風のセメントは無理だがローマ帝国やエジプト王朝時代に使われていた古代コンクリートの素材となった古代セメントなら作ることが可能になるかもしれない。


「ヤンクルさん!これってどこで手に入れたんですか?教えてもらえますか?」


「それじゃさっきの仲直りの話は……」


「はい!俺は約束を違えるような事はしません、仲良くしますよ?」

 ヤンクルさんが『ずいぶん難しい言葉を知っているんだな』と言っているが俺には今回のヤンクルさんからの提案は僥倖と言えるものであった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る