第51話

「ヤンクルさん、俺はその女性に会ってきますので見張りを頼みます」

 俺はすぐに壁の上から跳躍して村側に降りて、フイッシュさんに近づく。

 自分の体とは思えないほど体が重く感じる。

 おそらくはあと、2日も防衛できないだろう。


「フイッシュさん。それでは案内してもらえますか?」

 俺の言葉にフイッシュさんは頷く。

 そして彼に、女性が待っていると言う場所まで案内してもらう。

 

「この向こう側にいるんですか?」

 俺はフイッシュさんに確認を取ると頷いてくれる。

 壁の上に跳躍して立ち、前方へ視線を向ける。

 すると100メートル先に、30騎の騎馬兵と一人の女性騎士の姿が見えた。

 俺は跳躍しながら掘の外に向かう。

 そして、女性騎士の前に降り立つ。すると全員が抜刀して俺に武器を突きつけてきた。


「貴様は何者だ?この村の者か?」

 女性騎士が俺に向けて問いかけてくる。

 俺は懐から村長から渡された書簡を取り出して差し出す。

 書簡を俺から受け取った女性騎士は、書簡に目を通していと僅かに威圧感が減った気がした。


「―――なるほどな、思っていた通りだったというわけだな。おい、貴様!名前はなんと言う?」


「ユウマです。一応代理で村長をしています」

 俺は両手を頭の上で組んだまま女性騎士の質問に答えると女性騎士はため息をついてから、抜いていたサーベルを腰に戻した。



「おい!お前たちも武器を仕舞え」

 女性騎士の言葉に武器を仕舞っていく騎馬兵士達を見て俺はため息をついた。


「すまなかったな。半信半疑であったが領内で捕らえた不審人物共が村から追い出されたと言い訳をしていたからな、気になり来てみたのだ……そうだな。兜をつけたままでは、誠心誠意の対応とは言わないだろう。」

 女性騎士は、バイザーのついた兜を脱ごうとした際に、一瞬躊躇した後に脱いだ。

 すると長い銀色の髪が、太陽の光を反射しキラキラと光りながら重力にそって絹糸のように垂れる。

 髪の毛の一部が、額に張り付いており頭を振って両手を使って美しい髪の毛を整えると俺に視線を向けてきた。

 俺は、彼女の容姿を見て息を呑んだ。

 整った鼻筋に、気弱でいてやさしい印象を与える垂れ目がちな瞳。

 瞳の色は赤くルビーのように美しく、桜色の唇は瑞々しい。

 リリナも相当の美人だと思っていたが、上には上がいた。

 もう、これは……美人と言う単語だけでは言い表せない。


「私の名前は、エメラダ・フォン・イルスーカと言います。エメラダと呼んでくださいね。一応、アルネ王家より、このイルスーカ侯爵領を治める事を許されたイルスーカ侯爵家の次女になります。よろしくお願い致しますね」

 兜をつけていた時とまったく違う言葉使いに俺は驚きつつ――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る