第23話

「……そ、そうか。場所はどのくらい離れていたのだ?」

「ここから歩いて30分くらいの森の中でしょうか?」

「――今、なんと?」

「ですから、森に入ってから徒歩で30分くらいの地点に見かけました」

「……すぐに逃げんといかんぞおおおおおおお」


 突然叫んだアライ村長は立ち上がると床板を外し中から壺を取り出す。

 そして大きな布を敷くと、その上に洋服が入ったタンスから服を何枚も取り出して重ねていく。

 最後に壺を乗せて布を縛ると背負ってから、木で作られた靴を履いて外に出ていってしまう。


 俺があまりの手際の良さに呆然としていると、『アドルド!!ウラヌスが攻めてきおった!早く逃げるぞ!!』と言う声が聞こえてくる。

 俺はアライ村長に妻のユカさんを置いていくのかと視線を向ける。

 すると台所に立っていたユカさんもすでに荷物を纏めて終わっていた。


「ユウマ君!私達は代官だから絶対に真っ先に殺されるから!分かるわよね?だからユウマ君はイルスーカ侯爵様が軍を率いてくるまで村を守ってね!」


 え?この人は何を言っているんだろう?

 ユカさんは、それだけ俺に言うと到底60歳とは思えない程の速さで村長家から外に出ていった。

 俺もすぐに村長の家から出ると、そこには荷車が置かれておりアドルドが必死に馬を荷台に括り付けていた。

 馬も、今までどこに隠していた?と思われるほど立派なものである。


「今日から、ここの村長はユウマ君!君に任せた!!これはその譲渡書だから!」


 俺の姿を見た村長は言い放ちながら羊皮紙を投げてくる。

 思わず受け取ってしまった俺を見てアライ村長の口角が上がるのを俺は見た。


「受け取ったという事は今日からは君が村長だ!責任は全て君にあるから!それじゃがんばってくれ!」


「いあ……ちょ、まっ……」


 俺が動揺している間に代官でもあり村長でもある一家は馬を走らせ、アライ村から外へ向けて走り去ってしまった。


「……村長なのに村を捨てやがった……」


 この状況を冷静に考えるとかなりまずいことになっている。

 

先ほど、ウラヌス十字軍を俺は撤退させた。

 その際に、武器も防具も破壊した。

 村を襲うのに丸腰でくるとは思えない。

 そうすると、ウラヌス十字軍は襲ってこない可能性の方が高いと思う。


 でも襲ってこなければどうなるのか?

 俺の発言でアライ村長が逃亡したという事は、俺が村長に虚言を吐いてその役職を奪った事にならないだろうか?

 遠縁でも、この地方を治めるイルスーカ侯爵の血縁だとすると、自分達に不都合な話など揉み消されてしまい罪を着せられる可能性が高い。

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