アフターストーリー 由紀と和志の場合⑥ -最後の大会へ-

「私達の分も頑張って来てね」

「あぁ恵たちの分も頑張って勝って戻ってくるよ」

「うん。後で由紀ちゃん達と一緒に応援に行くからね!」


7月某日。

今日は夏のインハイ県大会決勝だ。

森下学園はシード校として大会に参加したわけだけど危なげなく勝ち進み今日の決勝進出となった。

相手は川野辺高校。毎回県代表を争っている俺達のライバル校だ。


・・・と言っても学校が近いこともあり中学時代の同級生も多いし、バイト仲間だったりカラオケ仲間だったりとプライベートでは仲良くしている奴も多い。

でも、それとこれとは別。今日は絶対に勝つ。


ちなみに昨日女子バスは準決勝が行われ一足先に川野辺高校との試合が行われた。俺達も応援に行ったんだけど結果は僅差で敗北。


川野辺はPG村田が試合を組み立て、SFの小早川が中から切り崩しポイントを重ね、SFの浜野が3ポイントで外から切り崩す形で森下を押し切った。

もちろん今までは日岡さん達も負けてはおらず3人を抑え競り勝っていた。

が、今年は3人の他の選手も実力を付け尚且つ新人選手の活躍も目立ち僅かな差で負けてしまった。

何でも新しく凄腕のコーチが入ったとか・・・スパルタらしいけど。


そして・・・活躍した新人選手は日岡さん達の後輩でもあり俺の妹の美里だったりするからちょっと微妙な気持ちではあるんだよな。

活躍は兄として嬉しいけどさ・・・何で川野辺なんだよって。


そんなこともあり今日の試合は女子バスの分も頑張るつもりだ。


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今日の試合会場は川野辺大学の総合体育館。

結構立派な施設だ。

そして、この大学は俺と由紀それから川野辺高校の田辺と小早川さんの志望校でもある。最近は一緒に受験対策などもしている。

来年、俺達はこの体育館でバスケ出来るのかな。


「和志何ボーっとしてるんだ。気合入れてけよ」

「あぁ保。大丈夫だ。これでも今日は気合入りまくりなんだぜ」

(まぁ考え事はしてたけどな・・・)


アップを終えた俺達は保の呼びかけでベンチ前に集まった。


「みんな聞いてくれ。俺達3年は今日負けたらそこで引退だ。俺はもう少しみんなでバスケがしたい。だから勝って全国に行くぞ!」

「「おぅ!!」」


だよな。まだ最後の試合にはしたくない。田辺には悪いが勝たせてもらうぞ。



第1クォーター。

川野辺は福島、田辺、清水を中心に長谷部、由良の3年生のレギュラー陣でスタートしてきた。

ジャンプボールは、うちの武田が競り勝ったけど清水がボールを素早く奪い田辺との連携で先制を決めた。

これで火が付いたのか笹原がいつもにも増して活躍を見せた。


「藤原!」

「おぅ!」


ボールを持ち左サイドにドリブルする笹原の背後をクロスする様に走り抜けた俺はノールックでパスを受けフックシュートを決めた。


「和く~んナイスシュート!!」

「「ナイスシューふ・じ・わ・ら 森下学園ファイトーーー!」」


由紀と女子バスのみんなが応援に来てくれている。

みんなが見てると思うといつも以上に気合が入るな。

といつも以上に俺も保も横田も頑張って試合を勧めたわけだけど・・・相手も試合に負ければそれで高校バスケは終了だ。

練習試合とは比べ物にならない気迫で攻め立ててくる。

結果第1クォーターは思ったほどの得点は得られず同点で終了。


そして第2クォーターでは清水、由良に代わる形で恩田、栗田と2人の2年生が入ってきた。恩田は川北中時代の後輩だが正直かなり曲者でやりにくい。

お姉さんがあまりにも規格外の選手だったから比較され目立たなかったけど俺からしてみれば標準以上のレベルの選手でかなりのテクニシャンとして見ていた。

川野辺に行ってバスケは辞めたって聞いてたんだけどな・・・


そんな嫌な予感は当たるもので、俺も笹原も恩田に翻弄される形となってしまった。ゲームを仕切るのは福島と田辺だったが、恩田が俺達の動きを掻き回す形でフリーで動きペースが見だされる形となってしまった。

2年になってからバスケに復帰したはずだけどブランクを感じさせない動きとセンスだ。

今もコートの空きスペースに走り込み田辺のパスを受けシュートを決めた。

あの角度で打てるとか何なんだよあいつは・・・


結局第2クォーターは2点差のビハインドで終わることとなってしまった。


「やっぱり恩田は曲者だな」

「あぁそれにまだ平野が出てきていない。あいつも得点力あるから要注意だ」

「多分・・平野は温存して切り札として使うんだろうな」

「とにかく。点差は2点だ3ポイント1つでひっくり返せる。次で逆転するぞ」

「「おぅ!!」」


第3クォーターは長谷部を下げて清水が再び出てきた。清水と栗田がやや後方でディフェンシブに動き福島を中心に田辺と恩田が動く形だ。

俺達も得点力の高い横田を中心に木島、富岡でゴールを攻め一進一退の攻防が続いた。

一時得点も6点差を付け逆転したが、終盤に出てきた吉見の3ポイントが連続で決まり結局1点差で負けた状態でクォーターを終えることになってしまった。


そして最後の第4クォーター。

予想通り出てきた平野が得点を重ねるが相手はまだ1年だ。得点力はあっても付け入る隙はある。

そして、それを実践するため福島のマークをフェイントでかわした保が平野の持つボールを取りに動いた。


「保先輩!」

「ったく恩田も平野も森下に来てくれたらよかったのに・・よっ」

「先輩方には申し訳なかったですけど美里が川野辺選びましたから・・・っく」

「全く美里ちゃんにべた惚れだな平野は・・・っそら」


俺は福島と清水を牽制しつつ保の様子を見ているが、平野は完全に保のプレッシャーに押し負けてる。

ライン際に追い込みボールをゲットできるかと思われたその時、いつの間にと思うスピードで恩田が平野の背後ライン際をボールを奪う様にして走り抜けた。


そして、そのボールに俺が一瞬目を奪われた隙に田辺がゴールに向けて走った。

俺も慌てて追いかけようとしたが福島がスクリーンとなりブロックしてきた。


「しまった!ゴール下!田辺マーク!」

「行かせないよ」

「っく 福島」


そして恩田の投げたボールを田辺がアリウープ気味にゴールした。


結局この後は両チーム得点が出来ず俺達は3点差で負けることとなった。


「ちっくしょ~負けちまった。福島!俺達に勝ったんだ全国で暴れて来いよ!」

「お前らの分まで暴れて来るさ」


保と福島が話をしている。

でも保も悔しそうにはしているけどその顔は何だか清々しい感じだ。

そうだな。俺も出し切った。

と、俺は田辺に話しかけた。


「はぁ・・・長い夏休みになりそうだな・・・頑張って来いよ田辺。決勝まで行けたら応援に行ってやるよ。」

「あぁ任せとけ!」


やるだけはやったんだ悔いはない。

全国大会は名古屋だったよな。

応援がてら由紀と旅行でも行こうかな。

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