第9話 タイミング

朝、吉野に由紀との事を聞くつもりで声を掛けた。

でも、由紀が吉野に熱があることを伝えていたと聞いて・・・俺は何も聞けずにその場から逃げてしまった。

今までの由紀なら、何かあればすぐ俺に連絡をくれていたのに、今その役目は吉野になってるんだと思ったらやっぱり辛かった。

まぁ考えれば当たり前なんだよなあいつら恋人同士なんだし。


「よぉ和志。何だよ朝っぱらからしけた顔して」

「この顔は元からだよ。っうか人の顔を・・軽く酷いぞ保」

「わりぃわりぃ まぁでも昨日よりは少し顔色も良く・・・はなってないか」

「そうだな・・・昨日お前らが、色々と言ってくれたおかげで気持ちとしては何だか軽くなったような気はするんだけど・・・まだまだって感じではあるかな」

「そうか。まぁお前のペースでいいんじゃないか?」

「そうだな」


確かに慌てても仕方ない。

由紀が吉野と付き合って幸せだって言うなら俺はその幸せ祝いたい。

でも・・やっぱり俺も由紀の事は好きなんだ。この数日であらためてわかった。

由紀が俺を唯の友達としか見てなかったとしても気持ちだけは伝えておきたい。

それが・・・俺としての"けじめ"かな。


どうせ家は隣なんだし、少し早めに部活を上がって由紀に会いに行ってみるのもいいかもしれない。

今日は学校も休んでる。お見舞いということでもいいだろうしな。

ただ・・・会いに行くとして、俺は由紀に何を聞くんだ?

吉野との関係?それとも俺の事どう思っていたのか?

・・・

などと考えていると、いつのまにか授業も終わり部活の時間となった。


体育館に入ると俺的にバスケバカな男"横田"が一人で自主練をしていた。

『こいつ、本当にバスケが好きなんだな』

とそんな横田を見ながら、俺は軽くアップをしたあと、横田に向かって走り出した。

横田から"動きにキレがない"とか言われちまったからな。

俺は、迷いを吹っ切るように横田にボール投げた。


「横田 1on1だ!俺を抜いてみろ!」

「おもしれぇ久々に勝負してやるよ」


ボールを受けた横田は、俺に向かってドリブルをしながら迫ってきた。


「おっ!いい感じに動きが戻って来たじゃん藤原」

「お陰様でな。ということで簡単には抜かせないぜ」


1on1なのでパスは出せない。

ドリブルの緩急やフェイントで俺を抜きにくる横田。

フェイントを読んで止めに入る俺。


少しずつ体育館に入ってきた他の部員も俺達の勝負を見ている。

と俺が一瞬部員たちを見た隙に横田がフェイントをかけシュートを放った。

『っしまった!』

ボールはゴールされるかのように見えたが、わずかにそれてしまいリングに当たりコートの外に弾かれた。


「今日のところは引きわけだな」

「いや・・シュートされちまったんだお前の勝ちだよ。

 行けると思ったんだけどな・・・俺もまだまだか。次は勝つからな!」

「ふっ 簡単に勝てるとは思うなよ」


こうやってバスケに打ち込んでいると色々と嫌なことも忘れられる・・・・


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<Side 笹原 保>

部活を終えて恵との帰宅。

俺にとって学校での1日を締めくくる最も楽しい時間だ。

ということで、いつもの様に恵と会話をしながら歩いていると校門の前で例のごとくあの男が待っていた。サッカー部って暇なのか?あいつも部長だろ?

『ったく教室に来ればいいのに・・・』


「おぅ吉野。 また何か用か?」

「あっ いや、今日は藤原だったんだが、一緒じゃないのか?」

「あぁ今日はあいつ用事があるとかで先に上がったぜ」

「なっ・・・・そ そうか、それじゃ仕方ないな・・・」

「どうしたんだ?」

「例の件あいつに謝ろうかと思ってな。綾女にも来てもらったんだ」

「こんばんわ。由紀がお世話になってます姉の綾女です」


森田の姉貴。綾女先輩か。確か川野辺高校だったよな。とすると福島の先輩か。

話しするのは初めてだけど中々の美人だな。

ただ、何というか森田とはずいぶん雰囲気が違うんだな。


「で肝心の森田は居ないのか?」

「ああ。居ない。本当は3人で謝るつもりだったんだけど森田は一人で謝りたいって言っててな。それに今日は熱だして学校も休んでるし、まずは俺達がと思ったんだ」


結局、藤原に本当の事を話して謝ることにしたのか。

それはまぁ良いと思うけど・・・


「・・・大丈夫か森田 一人で?

きちんと一人で謝罪したいって森田の気持ちもわからなくはないけど、今回の件もどちらかというとあいつが突っ走ったせいで色々誤解が生まれたようなもんだろ?それに俺達も森田とはそこそこ付き合いは長いけど、あいつ・・・藤原が絡むと結構ポンコツになるぜ」

「・・・確かに否定できないな。藤原が絡むと

ただ、あいつも真剣にちゃんと謝りたいって言ってたんだ。だから・・・・」


そういいつつも吉野も綾女先輩は暗い顔をして俯いていた。

森田が危なっかしい奴だってのは、ちょっと考えればわかるだろうに・・・

いや、わかっていたけど・・・ってところか?

この二人も森田や藤原のために動いていたのはわかるけど詰めが甘すぎるな。


「ね ねぇ藤原君の用事って、もしかして由紀に会いに行くとかじゃないわよね?今朝うちに来たらしいのよ由紀に会いに・・・」

「そこまでは俺達もわからないけど・・・無いとは言えないな」

「翔太。家に行きましょ。由紀の事は信用したいけどあの子・・・」

「そうだな。 笹原、日岡悪いな。また今度ゆっくり話でもさせてくれ。

 それじゃ」


善意のつもりなんだろうけど・・・

何だかあいつらが余計に話を拗らせてるんじゃないか?

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