3-7 手札帰還――バウンス
蓮丈院遊月 AP1250 美澤マイリー AP2500
なんというダブルスコア。
1ターンでもう倍まであげられてしまった。
「まだだ! あたしは〈ヴェルデバスワンピ・コルト〉の効果を発動!」
効果の発動と聞いた途端、完全に忘れていた俺に鞭を打つような悪寒が走る。
美澤が豪快に腕を背に延ばし、衣装の中に仕込んでいたのか人間の片腕分の長さと太さを持つ、鉄の棒、いや砲身を取り出す。
「狙いは〈エヴォルスワンワンピ〉だ!」
なんでアイドルの衣装にご立派なウェポンが?
と無粋なツッコミがかみ殺されるほど、そのコンパクトな砲口がこちらに狙いを定められている生涯経験しえないだろう驚異に圧された。
「コスチュームのAPを200下げて……ファイアァ!」
一拍のチャージを経て、放たれる一発。弾丸ではなくビームっぽい光線。
しかし、何であれカードから放たれる一発であるなら、それは紛れもなくカードによる効果でしかない。
「応戦だ! アクシデント発生! 〈ダメージハンデ〉!」
コスチュームを破壊してランドリーに送らせる効果であるならカードで防げる。
〈ダメージハンデ〉は、自分自身のAP――総APが、コスチュームの合計APと異なる場合、一度だけランドリー行きを免れる効果を持つ。
今の俺のステージ上にはAP1300の〈エヴォルスワンワンピ〉があるが、【飾血】を使用したことで50ポイント下がっている。発動する条件は十分に整っている――はずだった。
「ど、どうした!?」
伏せたカードが半分だけ起き上がりかけた時、エラーを告げる不穏な電撃をまといながら再び眠りについてしまった。
「発動しないだと!?」
困惑と硬直。
何がどうなって発動しないんだ。
様々な要因をさかのぼって究明しようとする間に、敵の光弾が心臓に命中した。
「――残念だね。〈コルト〉が発動する効果は、ランドリーに送る効果じゃないのよ」
着者ごと光の弾道に貫かれた衣装には、風穴らしい傷跡はない。
だが、貫通した後遺症なのか、徐々に〈エヴォルスワンワンピ〉そのものが透明になってゆく。
「こ、これは?」
「〈コルト〉が放った弾丸の能力。それは、狙いを定めた相手コスチュームを手札に戻すこと!」
現実からワンピの虚映が消え、プレートに乗せていたカード本体が飛び跳ねる。
「手札帰還――バウンスか!」
カードゲームにおいて、相手の盤面を荒らす妨害手段。
一つは単純にカード同士を戦わせて捨て場に追いやること、もう一つはカードの効果を使って捨て場に送ること。そして、場から手札に強制送還させること。
場から捨て場――ステージからランドリーに送る効果は、その気になれば蘇生させるカードを使えばコストとは無縁に復帰できる場合がある。
対外のゲームは、そのほうが効率良く自ら捨て場に送って早急に場に出す手段を用いる。
故に捨て場こそ、第二のデッキと呼ばれていた。
しかし、手札になるとそうはいかない。
コストを支払うゲームなら、再度支払わなければいけない手間が生じるし、最悪場に再度出せないお荷物と化してしまう。
単純に捨て場に送られるよりもたちの悪い除去なのは、恐らくどのカードゲーム共通だろう。
幸い、このカードには厳しいコーデ条件があるわけでもない。
だが、何にしても丸裸はなおいっそう分が悪い。
普通に脱がされれば0だが、俺は【飾血】のせいで-50を突破している。
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