女児向けアニメの使い捨て「悪役令嬢」になったが、マッハで寿命がヤバい
カスケ山脈
序章 アイドル同士の対決なんです
0-1 ※注意 アイドルのカードゲームです
「〈マジカルwithアイドルズ〉。
略してマジアイと呼ばれたそれは、今や全国のアイドル達の間で、最も熱いエンターテイメントを繰り広げる、まさにゲームを超えたツールとして世間に浸透しています!
そしてルールはとっても簡単。
アイドルであるプレイヤーは用意した40枚の山札から、一枚ずつ交互に衣装の描かれたカードを出し、それぞれに設定された数字――アピールポイントを上げて対戦相手と競います。
ただし、アピールポイントの合計が3000を越えたら負けとなってしまいます!
つまり、プレイヤーは限られた範囲の中でアピールを競い合うしかありません。
細かい計算能力と運の他に、自分を補助するミュージックカードや相手を妨害するアクシデントカードなど、一見シンプルなようで、とても知的な戦略が求められています。
それでは今回は、そんなスタァと呼ばれるマジアイプレイヤーのアイドルを育てる養成所の様子をご覧に――」
横切る突風。
地表と平行になるほど荒ぶる亜麻色の髪。
張り付いた笑顔のままカメラに向かってしゃべり続ける赤い眼鏡の美人レポーターの背後で、セリフが途切れてしまうほど盛大な破裂音と共に壁が穿られた。
「――うぅ……クソゥ」
パラパラと雨粒のごとく降ってくる石片を前髪に絡ませながら、凹んだレンガ壁の中で俺はもはや尻餅の域を超えた体制になって瓦礫に埋まっていた。
「おや? 早速一人のスタァが派手に吹っ飛ばされてます。展開はおしとやかなのですが、このように体を張ったリアクションで視覚にも臨場感を出すのが、このゲームの醍醐味なんですよね」
自分の真後ろで、自分の年齢よりも半分しか生きていない少女が壁にクレーターを成すほど吹っ飛ばされたというのに、この赤眼鏡のレポーターは、それが通常運転であるかのようにほのぼのとした所感をマイクに向かって述べる。
醍醐味というのは、あながち間違っていない。
――この「世界」の倫理と芸術観念なら。
しかし、これをリアクションとして片付けるのはどうだろう。
コツコツと小突くように降ってくる瓦礫の欠片。
細かく砕かれてしまった石壁の粒子が、土煙となって俺の視界を遮る。
右の鼻の穴から、ドロリとした液体が流れる。
鼻水にしてはずいぶんと生暖かい。
おまけに左の鼻からは穴からではなく鼻頭を伝って別の液体が筋を作る。
これまた汗にはない粘り気を帯びてやがる。
頭血と鼻血。
アイドルなんだから「水も滴る」なんて表現はお似合いだが、こんな生臭くて不透明な体液が滴るアイドルは、よほどこじらせた性癖でない限りドン引きもんだ。
おまけに血は渇くのが早い。
周りは土埃が撒布されて、余計に乾燥しやすい。
顔中に描いていた赤い筋はとっくにガビガビ。
こんな惨事、もはや鏡なんか見なくとも想像はつく。
正確には俺のじゃなくて、人様の顔だから自慢させてもらうが凜として年の割に大人びた少女の美顔が台無しだ。
「フハハハハ! 流石に【ユーバメンシュ】のトップ候補生に君臨する
未だに晴れない土煙の中で、ぼんやりとした葉巻型の影が浮かび上がったかと思うと、ずいぶんと調子に乗った煽りをたれながら大きくなって行く。
近づくにつれ人の形になった頃には、振りまいていた石粉はすっかり晴れてしまった。
石で出来た霧の中から現れたのは、自分と同じくらいの少女。
確か名前は、ランコ・エドガーといったかな。
本日の
興味ないけど。
薄紫色の花弁を彷彿とさせる、花を見立てたアイドル衣装。
実際に現実で作ろうものなら制作費だけで頓挫もやむを得ないほどの出費になりそうだが、それをほぼロハで着せてくれるのが、その右手に握られているのはマイク――のような装置だ。
アイドルなのだからマイクを握っているのは当然。
だが、これは普通にカラオケで握れるマイクとは違う。
まず、声を注ぐ金網でくるまれたマイク部分がない。
代わりに、デッキとして束になったカードが、すっぽりと収まっている。
そして柄の部分には翼にも似た7の字の装飾品が備わっているのだが、その側面から柄自体の面積を拡大するように、得体の知れない虹色の物質が伸びていた。
面白いことに、その虹色の物質は手で触れるような質量と高度を持っており、プレートとなったその上にカードを乗せるとスキャナーとして読み込み、持ち手であるプレイヤーの体にイラストと同じ衣装を着せてくれる優れもの。
もちろん、着せられた衣装の素材は実体のない仮想映像だが。
今まさに、ランコの持つマイク型のカードリーダーの上には、本人が着ている衣装と同じデザインの服が描かれたカードが乗せられている。
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