忘れられた人

 その時モニターから蚊の鳴くような声が聞こえてくる。

 あんなにも美女に囲まれているというのに顔が引き攣っている。


『あの〜美菜さん。俺の事助けてくれないんですか〜?』

「あ〜、忘れてた。自分でなんとかしなさい。いつまでも女性恐怖症とか言っているとこの仕事はどうにもならないわよ」


 美菜さん、手を額に手を当てて失望する姿もお綺麗ですとは言えず、俺はさっきから気になっている事を聞く。


「あのすみません。俺全くついていけていないのですが、このモニターってなんですか? 映画とかの撮影か何かですか?」

「ああ、これ? これは、飼育してる獣達を観察するためのモニターよ」


 美菜さんは手を上げ、手を空間でスワイプさせるとモニターの構成が変わり、ハーレム優男が大きく映し出された。


『美菜さ〜ん。ビェ〜』


 モニターからは固まって動けず、泣き始めた悲惨な情景が流れている。

 美菜さんは動揺せずに何も見ていないかのように、説明を続ける。


「まだ、聞いてないかしら。この島って特異なのよ。本土から離れているせいか、野生の獣達の一部が生き残るために不思議な進化を遂げていてね。人間が島の頂点に立っているからか、その姿に憧れたそうでこうなっているのよ」


 モニターにレザーポインターでクルクルと指し示されたのは、半裸の女性だ。

 やはり見間違えじゃないのか。丸っぽい茶色の尻尾がついている。


「つまり、この女性も獣だと……」

「ご名答。海斗くん。ちなみにこの子達は日本猿ね。眠っている間なんかはただの猿なんだけど、日中活動している時はだいたい人型を取っているわ。それはいいとして」


 美菜さんが俺のそばにやって来て、すっと手を伸ばす。その手の先には俺の股間があるではないか。俺はさっと手を伸ばしガードするとクスクスと笑われ、太腿に触れて何かを摘むような仕草をした。


「猫の毛かしら? 海斗くん猫でも飼ってるの?」

「あー。これはたぶん昨日迷子の猫がうちの敷地に入って来たので保護してたんですけど、朝になったらどこかに行ってしまったんです」


 眉間には皺が刻まれているが、なんだろう。もしかして猫アレルギーだったのだろうか。

 江角さんもあまりいい表情ではない。皆あまり猫好きではないらしい。


「山内さん大丈夫でしたか? その……」

「その?」

「身の危険は感じませんでしたか?」

「別に大丈夫でしたけど」

「大丈夫だったのならいいんですけど」


 たかが猫一匹とは言え、この島では特異な変化をしているのかもしれない。特に身の危険を感じる事はなかったが、今後は気をつけよう。


「まあ、本人が大丈夫っていうのなら、大丈夫よ。いい大人なんだから任せるわ。それよりも倒れたみたいだから助け出さないと」


 モニターを見てみれば、美女達に攻め倒されている優男が気を失っているところだった。


「ちょっとついて来てみなさいよ」


 ガシッと美菜さんに左手で手を握られて、前に進む。江角さんも後ろからついて来てくれるようだ。


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