美人?

 何個かの壁抜けをするといくつかのモニターが設置されている部屋へと案内された。

 そこに一人の30代前半の女が椅子に座って機材の一つであるマイクに向かって怒鳴り散らしていた。


「手前、またサボってんなー! 何やってんだこのフェロモン男が」


 その女が見つめるモニターの先には、半裸状態の美女(?)を首や体に纏わせつけているいかにも優男がいた。なんと羨ましいのだ。

 いや、ここで?がつくことが肝である。

 俺の目には先ほどから幻覚がちょこちょこと映っているようだ。いや、何かの異世界系のアニメの実写が流れているだけでリアルタイムな映像じゃないかもしれない。


美菜みなさん。お久しぶりです」


 江角さんがぺこっと女の人に挨拶してクスクスと笑っている。

 どうやら知り合いのようだ。


「あーら、江角ちゃんお久しぶりね。そちらの方は?」


 長い黒髪を耳にかけながら美菜さんは妖艶に微笑みながらこちらを見てきた。

 美女に見られると縮こまってしまう。その様子を見て江角さんがまた笑っている。

 江角さんは少々意地が悪いのではないだろうか。


「ふふふ。美菜さん、こちらは移住体験で寿馬宇村にお越しになっている山内さんです。今日は見学です」

「……へえ」


 美菜さんの視線が熱く注がれる。そんなに見られても俺に男としての魅力がないのは知っている。ダメメガネだ。

 緊張で頬を硬らせながら美菜さんの口元をチラチラ見ながら名を名乗る。


「山内海斗です。よろしくお願いします」


 何故か俺、今美菜さんに向けて手を出してしまった。自然と握手を求める形になってしまっている。

 江角さんも美菜さんもニヤニヤとしている。


「ふぅーん。私は林美菜。よろしくね」


 差し出した手をぎゅっと握り返してくれる。

 それどころか手を取って俺の手の甲を撫でてくる。

 いかん。俺は美人に本当耐性がないのだ。


「美菜さんはこれでも元男なんです。こんなにお美しいのに……」


 江角さんが笑顔で何か爆弾を投下している。言葉の意味を理解するまで少し時間がかかったが、思わず手を引っ込めてしまった。

 この美しさで元男なのか、男と分かっても手汗が止まらない。

 確かに首元はタートルネックで隠しているようにも思える。


「あら、もうバラしちゃったのね。でもまあ、よ・ろ・し・く」


 耳元で囁かれれば、ゾクゾクと感じてしまう。美人は恐ろしや。恐らく男でも女でも関係なく人を虜にしてしまうのではないだろうか。

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