赤ずきんちゃんとお菓子の家
餅雅
ヘンゼルとグレーテル
「遠くへ行っちゃ駄目よ」
心配そうな母の声を振り切って二人の子供は駆け出した。
小学一年生の男の子はハジメ、同級生の女の子アキナは家もお隣同士で家族ぐるみで仲が良かった。
キャンプに来るのは今日が四回目だったが、山でのキャンプは今回が初めてだった。
だから森で子供二人が行方不明になった時、大人達は必死に探した。
アキナの母は貧血を起こして倒れたが、ハジメの母が付き添ってくれた。
夜になっても帰って来ない我が子に何か遭ったのでは? と悪い予感がする。
警察と消防に連絡し、翌朝から山の捜索が始まったが二人は見つからない。
マスコミからの鬱陶しい取材と、不安な時間が気力も体力も削って行った。
まだ、あの日最後に見送った後ろ姿が瞼に映っている。
何故あの時、二人だけで行かせてしまったのだろうかと何度も後悔した。
スマホの中の写真には笑っている我が子の姿が何枚も保存されている。
入学式の動画も、誕生日の映像も、見る度に虚しくなるだけだった。
行方不明から七日が経った。
もう駄目だ。誰もがそう思っていた。
子供が二人きりで山の中で生きていけるはずがない。
そう諦めていた時、捜索隊から一本の電話が掛かった。
「見つかりましたよ!」
その言葉に大人達は小躍りした。
ああ、神様ありがとう!
お互いの家族が涙を流し、握手をして喜びあった。
ーーそれがまるで昨日の事の様だ。
*******************
ハジメは寒空の下でぼうっと空を眺めていた。
転校した学校では中々馴染めず公園で暇を潰す日々が続いた。
そもそも学校へ行ってもまた直ぐに転校するのだから、友達なんか作っても仕方がない。
家に帰ればノイローゼの母が寝ているだけなので暇でしょうがない。
前はとても優しくて元気な母だった。
父もよくキャンプに連れて行ってくれて、とても仲の良い家族だった。
けれどもあの事件のせいで両親は離婚した。
ハジメは当時の事を回想した。
森の中を歩いているといつの間にか道に迷ってしまった。
来た道を戻ったつもりだったのにいつまで経ってもキャンプ場に戻れない。
夜になって真っ暗になると必死に助けを求めて叫んだが人の声は聞こえない。
何処をどう歩いたのか分からない。
日が登って、また落ちて登った。
すると目の前になんとお菓子の家が現れたではないか。
ハジメは歓喜してドアノブについた飴玉を口に入れた。
夢中になってお菓子の家を食べた。
お菓子の家がなくなる頃にやっと捜索隊の人に保護された。
ハジメがお菓子の家を全部食べてから、悪い魔女が追いかけてくる様になった。
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