R メレンゲメーカー

 メレンゲ。卵白を泡立ててふわふわにしたもののことである。

 材料として使用すると滑らかでふわふわな食感になるため、様々な料理・菓子の工程の一つとして作られる。

 ただし、手で作ろうとするととんでもない重労働になりがちな代物でもあり、電動ホイッパーがある時代である喜びを強制的に噛み締められるだろう。


 今回はそれを製造するナニカがでてきた話だ。





 クローンチンピラの目撃例が明らかに増え始めている。

 今のところ、不審者情報が出回る程度で収まっている。

 だが、実際に絡まれたりするとそのまま殺傷事件につながってしまう危険性があるのが困る。


 やたら攻撃性が高く、目があっただけで噛みついてくるし、それを理由に正体不明の異能を使用されるとそれだけでテロだ。

 確実に死人が出るし……異能のことも露呈する。


 魔法技術もまだ全然終わってないのに異能の後片付けとかできるわけがない。

 規制とかしようもない。


 現状、数十分うろついて消えるという挙動を繰り返しているだけなので放置出来ているが。

 うろつかせることで対応を見ようとしているように思える。


 はーやだやだ、相手の計画性が見えるの困る。

 強引な手段を取らないと対処出来なさそうだし。

 もー考えたくない。


 はー。

 今日の分のガチャを開けよう。


 R・メレンゲメーカー


 出現したのは巨大な機械だった。

 工場に置かれているような生産機械である。


 巨大な配管と投入口、そして圧力鍋に似た巨大な釜のような機構がつけられている。

 なにかを撹拌して煮詰める機械のようにも見えるが……名称はメレンゲメーカーなんだよな。

 じゃあメレンゲだろ、と言いたくもなるが。


 これはガチャの景品なのだ。

 メレンゲ以外を出力してくる可能性も当然ある。

 メレンゲ以外のなにかならまだいい。

 下手すると、なにかわからないものをメレンゲ状にしたものを出してくる可能性もあるのだ。


 メレンゲ状の正体不明物体の場合、周囲に危険が及ぶ可能性もある。

 たとえばメレンゲ状の強酸が撒き散らされたらどうなる?

 簡単な話だと言えよう。


 他の可能性を考えると。

 投入口があるから、どんなものでもメレンゲ状にする機械とか?

 ありえなくもない話だ。

 とにかくふわふわぷるぷるで滑らかならメレンゲのようなものだと言っていい。

 ガチャの景品なら食べられるかどうかも問わない。


 ひときわ大きく主張している赤いボタンがある。

 これを押せば、機械は稼働状態になることがひと目で分かるように電源のマークすら入っている。


 だから、押した。

 可能性を潰すだけのつもりだった。


 ゴゴゴゴゴ、と機械が稼働するときに聞こえたら嫌な予感がする音とともに、メレンゲメーカーは動き出し。

 その釜部分から大量のメレンゲを吐き出し始めた。


 それはもう、降雪機かなにかかと見間違えるほどに、釜からメレンゲを吐き出している。

 軽いメレンゲが雪のように舞い、あたり一面が真っ白に染め上げられる。よりによってちょっと甘いメレンゲで。


 は?

 無限メレンゲ吐き出し装置かよ。

 やめてくれよ、掃除しないといけなくなるじゃないか……。





 後日。兄が素材をメレンゲに変換する方法を見つけ出した。

 実のところ、あれは投入口に入れたものをメレンゲ状にする装置だったのだ。

 ただ、入れられたものを引きずり込んでとんでもない速度でメレンゲに変換する構造だっただけなのだ。

 そうすると、投入口から空気を吸い込んで……空気のメレンゲを作り出す。

 変換速度がイカれていたためにあんな状況になったのだ。


 で? そのまま卵を入れて動かせば使えるのかというと。

 そのイカれた変換速度故に、すぐに空気をメレンゲに変え始めて周囲をメレンゲまみれにするためになんの意味もない、と。


 デカくて邪魔なだけで使い道もねえじゃねえか!

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