R 消臭剤 

 消臭剤。部屋や服、トイレなど様々な要因で悪臭が発生しがちな場所の匂いと取るための薬品だ。

 用途によって置型の物やスプレータイプの物を使い分ける。

 匂いとは分子なのでそれを化学的に分解したり、捕まえることでその匂いを逃さないなど様々な方法が利用されている。

 方法によって対処できる悪臭が異なるため、利用する際はパッケージを良く読むのがおすすめだ。


 今回はその消臭剤が出てきた話だ。








 そういえば、宇宙エレベーター出現とサメ機巧天使シャークマシンエンジェルとの接触によって、その最寄の港となった沖縄にはかなりの金が落ちているようである。

 これから宇宙エレベーターとの取引やアクセスなどを行うのに丁度いい場所なのは前にも言ったとは思うが、それを見越しての開発がメチャクチャ進んでいる。


 米軍の基地の中にすでに魔法に関する研究所が建てられていたり、港の拡張工事が始まっていたり、宇宙エレベーターに行く人達向けのホテルが用意されていたり。

 まあ降って湧いた産業……というか事業なので変なバブルが起こっているという感もなくはないが。


 あとは宇宙エレベーターをひと目拝みに観光に来る人達な。

 地球側の宇宙エレベーターは超でかいだけで普通の塔なのでわざわざ見に来る価値があるかと言われると微妙なところだが。

 超でかい塔って時点で見に来たくなる人達もいる、ということだろうか。


 あと調査団が追い払ったマスコミも沖縄でスクラムを組んでる。

 港の端にカメラ並べてるのは意味があるのかそれ?

 うまく潜り込めなかった連中なので行動がバグってるのかもしれない。


 いろんな思惑があって、国際的な調査団からあぶれた人間がそれでも諦めきれずに沖縄に集まる構図はなんというか。

 ろくでもねえなぁ、という感じだ。

 あ、当然活動家もいる。


 さて、ガチャでも回そう。


 R・消臭剤


 出現したのは紫色の消臭剤だった。

 トイレに置くような箱型で、中にゼリーのような消臭剤が入っているものだ。

 上部が骨組みのようになっていて、中の消臭剤と匂いを反応させやすいようになっている。


 ゼリータイプのもの、ということは中のシール蓋を剥がすだけで使えるようになるもののハズ。

 中の熨斗みたいなのを濡らして引き出すとかそういう面倒なやつではない。


 そう思って上蓋を外すと、内蓋が付けられている。

 それを思い切りよく開けると。


 突然世界は音を失った。


 ……違う。

 消え失せたのは匂いだ。

 テラスは風が運んでくる土の匂いや、飾られた花の匂い、芝生の青い匂いなど様々な匂いがする。

 私が飲んでいる紅茶やりんごジュースだってそうだ。

 あと自販機の動作するオゾン臭。


 そういう、様々な匂いが、一瞬で。

 すべて消え失せた。


 そして消臭剤自体も匂いを持たない。

 こういう消臭剤なら香り付けもやってそうだが、まったくなかった。


 結果。

 なにもない匂いだけが残る。

 なにもない。

 無の香りだ。


 全く匂いがしないというのはそれだけで不安になる。

 私は、そっと消臭剤の内蓋を押し込んで締め直した。







 後日。兄が気配を消すのに消臭剤を使った。

 消臭剤を開封した状態でしばらくいると、全身から匂いという匂いが失われる。

 服が吸った汗の匂いも、口臭も、体臭もその全てが、だ。

 結果、匂いに反応する生き物に対して絶対的と言っても良いほど、気配を消すことが出来る。


 ……そんなもん使えるようになってどうすんだよ、という気はするが。

 そこまでして気配を消す必要がある状況が、今の兄にあるのか?

 まして匂いで追いかけてくる生き物から気配を消す必要が……。


 狼ぐらいなら片腕で返り討ちにできるだろこの野郎。

 何に使うつもりだよ消臭剤を!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る