R ロストレポート

 レポート。実験や観察などの記録を集め、報告を行うために必要な形式にまとめた書面のことだ。

 総じて、他人に読ませる必要があるため、形式を整える必要があり、その能力には人によって差がある。

 だから常に人が読めるものが出来上がるとは限らない。

 まして先鋭化した分野でのレポートとなれば、その分野を学んでいる人間でも読めない代物が出来上がる場合もあるだろう。

 読みやすい文章とはかくも難しいものである。


 今回はそのレポートが出てきた話だ。













 兄のダンジョン侵食が完了した。

 一瞬だった。

 わずか5層しか存在せず、ダンジョン侵食などという埒外の攻撃に対して耐性を持たなかったためにわずか1日で陥落したのだ。


 そして、兄は侵食したダンジョンから情報を吸い上げにかかる。

 ダンジョンが保有する情報というのは、ダンジョンの名称やこれまでの侵入者、どんなモンスターがいるか、どんな地形を作れるか……などなど。

 フィールドワークでは手に入らない、形而上の情報をダンジョンは保有しており、それは本来ダンジョンコアからしか閲覧できないものだ。

 だが、侵食したダンジョンは侵食した側のダンジョンとなり、その情報もいくらでも盗み見れる。

 重要な情報はあまり読み出せないのだが……。


 まあ今回はそういうわけでもなかったようだ。

 ダンジョン名で、欲しかった情報が手に入ったからだ。

 その名称は「北限迷宮・飛び地」。

 つまり……北限迷宮というダンジョンの飛び地だ。

 十中八九、逃げ込んだ先もそこだろう。


 そして北限迷宮がある場所はすでにわかっている。

 サメ機巧天使シャークマシンエンジェルの調査部隊が地形調査の際にいくつかダンジョンを見つけていたからだ。

 それがあるのはガチャレクシアから北に存在する山脈の中。


 そこもまた、魔境と呼ばれる危険地帯である。

 あいつら危険な場所に潜り込むのが好きなのか……?


 はー、ガチャでも回そ。

 いやこれもろくでもないものが出てくるから頭抱えるけども。


 R・ロストレポート


 出現したのはクリップで止められた紙束だった。

 数十枚のコピー用紙を束ねたそれは、一番上の紙を表紙としている。

 そしてその表紙に書かれている文面はというと。


「平行世界12群・地球における遺失物の調査報告書」

 である。


 平行世界12群。

 当然のように平行世界が存在していることを示唆されているような気がする。

 これがどこから取り寄せられたものかはわからないが。

 仮に平行世界があったとして、私のいる世界が平行世界12群かも疑わしいしな。


 表紙からしてろくでもない代物であることはもうわかりきっているのだが、とりあえず中身を見てみよう。

 日本だけでも年間400万件近い遺失物おとしものをまとめた資料、怖いような気もするが。


「信仰を原材料にした神の鋳造法」

「信仰を原動力とした現実改変手法」

「自我」


 私はそっとページを閉じる。

 違うわこれ。

 落とし物をまとめた資料とかそういうやつじゃないわ。


 多分世界から失われた概念、法則をまとめた資料だわ。


 私の!

 手に!

 余る!


 なんだよこれ!











 後日。機神に資料を読み込ませた兄が、ある1つの概念を再生させた。

 それは「人間の脳に眠る可能性」だ。

 人間の脳は7~8割使われていない……という古い学説で、現代では完全に否定されているものである。

 この学説を下敷きにSF作品で超能力が出てきたりしていたのだが、最近はめっきり見なくなったような気がする。

 流石に古いネタだからだろうか?


 どうやって再生させたかはともかく(自室でこっそり魔術儀式組み立ててやがった)。

 それをした結果どうなったかというと。


 テレビにサイコキネシスを使う少年が出ていた。

 ちやほやされながら、ボールペンを念力で浮かすパフォーマンスをしている。


 ……大惨事だよ!

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